横浜 小沢達司詩集

 1964年10月、思潮社から刊行された小沢達司の詩集。

 

 まったく偶然の機会からこの詩編をものにすることができ、結果的には思いもよらぬ作品になってしまった。始め私は何気なく書き損じた原稿用紙の裏に港町という一般的なテーマを詩にしようと書いているうちに、頭に横浜のイメージを浮べていたので、そのイメージを一歩進めて横浜というそのものを詩にしたらおもしろいのでないかと考え、書きたしたり、なおしたり、省略したりしているうちにこのような詩編ができあがったのである。
 この作品を書くことによって私は横浜そのものから教科書をひもとくように非常に多くのものを学ぶことができた。作品の出来不出来はともかくとしてもこの詩をものにしたことはまったく有意義であった。がしかし、一体私は詩人であるのか、社会学者であるのか、一市井人であるのか自問せざるを得なかった。学者のようにいろいろな資料をずいぶんあつめ私なりに研究を積み重ねたし、また一市井人として社会の悪に対してはずいぶんいきどおりを感じ、あるいはまた詩人として作品を作ることに大きな喜びを感じたのである。この三位一体がこの作品を産みだしたともあるいはいえるかもしれない。詩人が自分の世界にだけとじこもり、こまやかな情を巧みをもって歌うことが、詩人らしい詩人、詩らしい詩、詩人の本来的なありかたとして美徳とされるなら、この私の詩は最も詩らしくない詩ということになるだろう。
 この詩に統計数字、固有名詞、会話体を思いきっていれてみたことでいっそう具体的客観的なものになったようだ。まだまだこの詩には手を加えねば気がすまぬ点が多いし、年月とともに書き変えねばならないものだ。あまりにも横浜は複雑多様深大である。一人の人間にはとうてい手におえるものではない。この作品ではざっとうわっつらをなでたにすぎない。百人寄れば百人百様の横浜が表現されるはずである。
(「あとがき」より)

 

 

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