思考の思考 渋沢孝輔

f:id:bookface:20180323200937j:plain

 1977年8月、思潮社から刊行された渋沢孝輔の評論集。装画は日和崎尊夫。

 

 〈現代詩〉という言葉はぼくもあまり好きではなく、できればすべて〈詩〉で済ませたいところであるが、今日の詩をその時代的な特殊性に即して語る必要がある場合に、いつも〈今日の詩〉ではどこか間延びがしてしまうので、やむをえず慣用に従って、〈現代詩〉と呼ぶことにしている。ところで、その現代詩の方向というようなものも見えにくくなってきた。ぼく自身にしても、客気に委せて闇雲に駆けぬけるよりは、なんとなく周囲を眺めまわすことのほうが多くなっている。見えてくるものは、いきおい、ひとつの方向というようなものよりも、あらゆるものにおける複合的な意味やその両面価値である。そう思って眺めると、日本の詩もなかなか〈多彩なアラベスク〉を織っているなとも思えるが、自分一己としては結局は、「ゆがみて蓋のあはぬ半櫃(はんびつ)」と知りながらも、その蓋を合せる工夫に精を出したり、「未進の高のはてぬ算用」を続けているということになろうか。ここに集めた文章も、例によって系統的な意図もなく折にふれて書いたものであるが、主題の選び方そのものにおのずから好みのようなものも現れているだろう。中にはかなり以前のもので必ずしも意に満たないものもあり、「詩の第一行をどう書くか」という問に答えて書いた「発端の詩」などにも、いまはみずから微妙な違和感を覚えているが、多少の手を加えただけでそのまま収録することにした。
 題名は編集部の選定による。〈思考の思考〉よりも、〈夢想の夢想〉とでも呼ぶべき面のほうが強いはずであることを考えれば、いささか羊頭狗肉の感もあるが、たまたま冒頭の一篇の表題にあるのを掲げたまでである。ただしかし、夢想によるにせよ思考によるにせよ、言語の新しい地平が開けてくることへの期待だけはぼくのなかにも生きていて、その期待のためには思考による思考の、そして夢想による夢想の検討がつねに必要だろうということだけは敢えて書き添えておきたい。
(「あとがき」より)


目次

  • 思考の思考
  • 発端の詩
  • ひとつの原点
  • 現代詩の両面価値

あとがき


NDLで検索
Amazonで検索
日本の古本屋で検索
ヤフオクで検索