2000年11月、沖積舎から刊行された岩田京子(1937~)のエッセイ集。上下2巻同梱。装幀は戸田ヒロコ。
遅くとも一〇年前に出すべきであったエッセイ集を、私の怠惰のために今年出す。この一〇年以上、詩よりもエッセイを多く書いたために分厚い本になったが、一部分でも読んでいただければ幸いだ。
各章を次のとおり掲載誌別に構成した。
Ⅰ「PEN」及び「日本現代詩人会報」
Ⅱ「現代詩ラ・メール」
Ⅲ「思想の科学」など
Ⅳ「思想の科学会報」など
Ⅴ「幻視者」
Ⅵ「詩と思想」など
Ⅶ「東京新聞」など(恒川京子名で発表したもの)
掲載誌の記載がないのは未発表の作品だ。
読みやすさのために、各章のエッセイは逆編年体になるように努めたが、徹底していない。たとえば「東京新聞」への投稿文は編年体だ。
やはり読みやすさのために、若干の説明を加える。
Ⅰの日本ペンクラブの会報「PEN」には、会員の投稿欄があったときに載せていただいた。一ドルのオモチャの指輪は、一九六八年夏にロッキー山脈の峠のおみやげ物屋で実際に買った。あるアメリカの友人に「一ドルの指輪」の話をしたら「私たちは誰でも心の中に一ドルの指輪を持っている」と言ってくれた。
日本現代詩人会報に載った小品も忘れ難い。
Ⅱ女性詩誌「現代詩ラ・メール」の主として「ラウンジ」に載った小品は女性色が強い。この雑誌では一○年間勉強させて頂いた。この季刊誌だけは今も全四〇冊を保管している。
Ⅲ「きのこ雲のそばで」は「戦後ってなんだったの?」の特集のために書いた。小学校二年生のときに見た原爆のきのこ雲ゆえに、私は一生平和主義者になった。
『姑の言葉と「じいさんばあさん」』の事実も私の実人生に大きく影響してきた。この体験は一度書きたかった。
「アメリカ、ヨーロッパをまわって」は一九六八年に職場の機関誌に載った。若書きだが、人間への関心という私のテーマは文章の最後に明確だ。_
Ⅳは追悼文だ。
Ⅴには武田隆子さんと山本楡美子さんの主宰される「幻視者」に載ったエッセイを収めた。この季刊誌にも本当にお世話になった。
「詩人の妻たち」は私の読書ノートにひとしいが、夫婦の修羅への関心からまとめた。
「研究・新聞に現れた詩」は、腕力で行った「研究」だ。見落としもあろうし、検定もしていない不完全な研究だが、新聞に現れた詩関連語のあらましは述べることができた。そしてパートⅢの「五」にあるように、作業は蟻地獄に似ていた。パートⅠの「この研究の結論は、俳句、短歌、現代詩の順に実作者と読者の数が少なくなっていくという既知の説を追認するにとどまった」は、余りにも当たり前だ。同じパートⅠの「さりげないニュースが、詩に無関係なのに、詩的なのだ」は私にとっては貴重な発見だった。
パートⅢの、新聞に現れる「非体系的な詩関連語の使用」は、他のどのような分野の関連語を拾ってみるときにも当てはまるだろう。
Ⅵはその他の掲載紙誌などだ。未発表の作品は削除するべきかもしれないが、私には捨てる能力が欠けているため人生全般にわたって苦労している。
Ⅶはいわば附録であり、「神田川」を除いて恒川京子名で発表した作品を収めた。
「東京新聞」とあるのは、発言欄への投稿だ。
「現場からのノート大切な事実」と「スーザンの手紙」は当時の職場であった東京都社会福祉総合センターの出版物に書いた。このように文学的な原稿を出版してくださった社会福祉専門組織の雅量に感謝する。
「七輪に火を熾して」と「『まどい』の頃」は更生保護に二三年間従事したうちの初期の頃の思い出だ。仕事の内容は特殊かもしれないが、職場の雰囲気を記録したかった。
「あなたは狙われている」のタイトルとサブタイトルは編集者がつけてくれた(現在は廃刊)。統計は古いが、執筆当時の女性をめぐる状況がまとまっているので加えた。犯罪から自衛しようという女性への呼びかけは今も適切だと思う。
「あとがき―『更生保護』誌」は保護司のための研修誌「更生保護」のあとがきを一編載せた。私にとってなつかしい雑誌だ。明らかに、これはあとがきの趣旨を逸脱しているが、そのためにこの一編を記憶していた。文中に「座談会の司会者の失敗で」とあるのは、司会者が私自身であったための自省の弁だ。
最後の三編は順不同で付け加えた。「国連会議の女性たち」に明らかなように、女性であることと専門職業性(プロフェッショナリティ)は私の終生のテーマだ。
「木馬」連載の「ホノルルの文学的環境について」(原題「アメリカの文学的環境について」)は、別冊とした。
(「あとがき」より)
上巻目次
Ⅰ
Ⅱ
- 「ゆきゆきて、神軍」の女たち
- 白石かずこ・詩の舟のゆくえ
- 読む詩 語る詩演じる詩
- オバタリアンと偏見
- 童謡ブームについて
- 離れる理由
- 東京国際女子マラソン寸感
- 足音
Ⅲ
Ⅳ
- 弔辞
- お茶と和菓子 前澤雅男氏に
- 大江満雄さんを送る
- 筆まめだった早川さん
- 山口木の芽さん追悼
- ある詩人の死
Ⅴ
- 三人の女性のことば
- アニメの効用 映画「風が吹くとき」
- ある詩人の夫
- 最も反詩的な事件・私の豊田商事体験
- インサイド・ストーリーについて
- 東中野のことなど
- 紙と労働・ソ連回想
- 日劇ミュージック・ホールのことなど
- 詩人の妻たち 一
- 〃 二
- 〃 三
- 〃 四
- 小さなヒロシマ・ゆるやかなナガサキ
- 断片の魅力・ロブグリエの世界
- 深刻で軽いユーモア・ボネガットの世界
- 分科会・文学と映像・七つの感想 一
- 〃 二
- 研究・新聞に現れた詩 パートⅠ
- 一 目的
- 二 研究の対象と方法
- 三 結果
- 四 各紙の詩歌関連記事の特徴
- 五 おわりに
- パートⅡ
- 一 パートⅡの内容と原則
- 二 詩歌関連語ボキャブラー集
- 三 詩歌関連語ボキャブラリー集作成にあたってのメモ
- 四 一紙に一日に詩歌関連記事が三以上載った例
- 五 パートⅡのまとめ
- パートⅢ
- 一 パートⅢの内容と予定
- 二 アクシデント
- 三 コメント
- 四 パートⅢ ボキャブラリー集と分類の尺度基準
- 五 おわりに
Ⅵ
- 女性が読む女性の本
- 図書館の本で旅に出る
- 寅さんの情報を読む
- 大人が読む子供の絵本
- 大人が読む子供の本
- 私の「アマデウス」日記
- 詩の翻訳のむずかしさ
- セールス話にご用心
- すがすがしい映画「達磨はなぜ東へ行ったのか」
- 謎の魅力「去年マリエンバートで」
- レストランでの失敗
- ベニスの一夜
- アンケート 仮面
Ⅶ
- 年齢という信仰
- 小説「ケースワーカー」
- 神田川
- 招くことが最高のもてなし
- 儀礼的な年賀状廃止する姿勢で
- 余韻残す美しい映像の「眠る男」
- 郵便番号の7ケタ化に不安 高齢者や視覚障害者考慮して
- 郵便番号7ケタ化でのコスト 料金の値下げという見返りを
- 究極の不用品は
- 亡き友を自宅に招待せず心残り
- 連用型を選ぶコツ
- 議論が必要な図書館利用法
- 個人の声の反映期待
- 現場からのノート 大切な事実
- スーザンの手紙
- 七輪に火を熾して
- 「まどい」の頃
- あなたは狙われている
- あとがき――「更生保護」誌
- 他人は見てるぞ
- 事故対策を教えて
- 国連会議の女性たち
あとがき
略歴
下巻 ホノルルの文学的環境について 目次