1972年12月、葡萄社から刊行された中桐雅夫(1919~1983)の第3詩集。
わたしは、この十月で五十三歳になった。詩集は、高村光太郎賞をもらった「中桐雅夫詩集」(昭和三十九年)以来、長田弘君編集の同名の文庫本詩集(昭和四十六年、以上思潮社刊) についで、本書で三冊目である。エリオットのいっている通り、偉大な詩人たる条件のひとつ が作品量の多さだとすれば、わたしには、とうていその資格はなく、今後もこの条件を満足させることは、できそうにない。 第一詩集は三百ページを越えていたから、とくに寡作というわけでもないが、上等のマイナー・ポエットといったところで辛抱しなくてはなるまい。
五十という年齢はいやなとしである。六十代以上の先輩からは若い者とみられ、若い者からは老人視される。バイロンも「ドン・ジュアン」のなかで「五十という数で、ものが引き立つことはめったにない」といっている。彼は三十六歳で死んだのだが、わたしは戦争のころ、なんとかして、三十代まで生き延びたいと願っていた。当時は、そんなことを口に出せる世相ではなかった。勇ましく戦死することが名誉とされていた時代だから、心のなかで思うだけだっ た。それが三十代をすぎ、四十代をすぎたのだから、いつ死んでもよさそうなものだが、死を恐れる気持はますます強くなっているのが実際だ。死ぬことばかりを考えて生きてきたようなものだ、といまさらながら痛感する。
(「あとがき」より)
目次
- 少女
- この町
- 秋思
- 垂水
- 夢の文字
- 夢の辞書
- christmas tree
- 写真集「人間家族」
- ブルータス
- 将軍
- 世相
- 忠告
- かゆい心
- 死の塩
- 落柿
- アイスランド・ポピー
- 誘拐
- 時の関節
- こんな島
- 詩人
- too late……
- ほこり
- 芸術家
- 彼らはみな
- 蜘蛛
- Cipher
- 平和の鳩
- parrots
- dictionary
- ちいさな声
- わたしはふたり
- 夢に夢みて
- あすの雨