1984年7月、神戸新聞出版センターから刊行された神戸詩人アンソロジー。編者は君本昌久と安水稔和。
『一〇〇年の詩集――兵庫・神戸・詩人の歩み』が蜘蛛編集グループ(中村隆・君本昌久・伊勢田史郎・安水稔和)によって刊行されたのは一九六七年(昭和四十二年)であった。明治百年、現代詩の百年を踏まえて、兵庫・神戸の詩人たちの豊かな詩業の数々を収めた詞華集であり、明治期十一人、大正期十人、昭和前期十一人、昭和後期(戦後)三十三人、計六十五人の作品を各一篇ずつ採録した。この種のものとしてははじめての試みであり、現在も唯一のものといっていい。
しかし、あれからすでに十七年が経ち、戦後も四十年を迎えようとしている。その間、『一〇〇年の詩集』の後半に登場した詩人たちはさらに見事な展開を示し、若い新しい詩人たちもまた続々と登場してきている。ここに時を得て『一〇〇年の詩集』戦後編として本書を刊行することになった。
昨年の春に編集の作業に取りかかった私たちはまず、戦後(一九四五―八三)に兵庫県下で活躍した詩人たちをメモすることから始めた。手もとの本の山を崩して関係詩集・詩書を取り出した。メモした詩人の数は二百五十人余、取り出して並べた詩集・詩書は四百冊をこえた。討議を重ねてやっと四十八人の詩人たちを選び抜いたときは、秋だった。収録詩人たちにアンケートを送り、資料を求め、収録詩人が戦後に出版した詩集百九十一冊を机上に置いた。読み通し、また読み返して、二百五十六篇の収録作品を決定したのは、長い冬がやっとおわろうとする頃だった。『一〇〇年の詩集』での一人一篇という編集とは異なり、今回は一人の作品収容量を五頁(二段組)平均とした。これはかならずしも充分な量とはいえないが、限られた頁数のなかで個々の詩人の特徴を戦後詩の流れのなかでとらえることができたと考えている。
収録詩人を生年で分けると、明治世代六人(うち故人四人)、大正世代十七人(うち故人二人)、昭和戦前二十人(うち故人一人)、昭和戦後五人となる。地域で分けると、神戸二十六人、神戸から東十一人、神戸から西六人、現在他府県在住五人となる。女性詩人は収録詩人四十八人中で十人を数え、そのうち九人までが昭和ヒト桁生まれである。また、昭和戦前生まれ二十人のうち十七人までが昭和ヒト桁生まれで、昭和フタ桁(昭和十年代)生まれは三人にとどまっている。
本書では戦後詩年表の作成を試みた。詩集・詩書・詩誌に重点を置き、若干の例外を除いてすべて原本に触れえたものを記録した。また、故人没年月日を記した。欠落はまぬがれぬだろうが、後日これをもとにより完全なものをと願っている。本年表から詩集と詩誌の推移を眺めると、一九四五年~五四年(昭和二十年代)は十八冊・三十一誌。五五年~六四年(昭和三十年代)は九十五冊・三十六誌。六五年~七四年(昭和四十年代)は百二十六冊・十誌。七五年~八三年(昭和五十年代)は百四十八冊・二十二誌。戦後に出た詩集は三百八十七冊、詩誌は九十九誌を数える。詩集の数は年々上昇しているが、詩誌の数は昭和四十年代に下降している。
本書での詩人の配列は、詩人の生年月日順とし、作品の配列は、詩集順・詩集内順を原則とした。『一〇〇年の詩集』に採録した作品の本書への再録は避けた。文字づかいについては、漢字の旧字体は新字体に整え、仮名づかいは原文どおりとした。一人の詩人の表記が年代によって異なる場合は原文どおりとした。
本書は戦後詩集成であり、当然のことながら、戦前詩集成もまた望まれている。『一〇〇年の詩集』編集時には不明の部分も最近ではかなり判明してきたし、新しい事実の発見もあった。本書にひきつづき戦前詩集成として『神戸の詩人たち―古典篇』を編みたいと考えている。
(「後記」より)
目次
- 山村順 うなぎ 告白 冬 味気のない季節 単数 地下鉄 さかさま諏訪山金星台
- 竹中郁 動物磁気 もらった火 たのしい磔刑 小遺言 生きてゐる十人の友の墓碑銘(抄) 伝言板 水
- 坂本遼一 遺書その二 れんげ畑 ガニヤ
- 能登秀夫 どん底 考える 故郷 ふんどし
- 林喜芳 露天商人の歌―足を見て暮らす毎日 たいくつな日 ――露天商人になれるか ――足うらの如き顔 ――地べたの生活 ――坐ってゐる考え
- 小林武雄 否の自動的記述第六歌 明石海峡 フキの臺 若い蛇
- 伊田耕三 妻への便り 雲 潤むとき
- 足立巻一 雨 漁港の空 断崖の道 石の犬 布引 中原
- 富士正晴 小信 小信 やけ酒 文学塹壕再び 小信
- 内田豊清 緑の蜂起 解体 路傍の樹 スモスの影 針金のある風景
- 広田善緒 植物誌・断片(抄) 火の舌(抄) 形見わけ
- 杉山平一 声 下降 退屈 洗濯物 会話 夜更けの坂 風鈴 星のように 私の大阪地理 犬
- 亜騎保 粗末な地 乾いた首を
- 高島洋 恐怖と戦場 圧延工と赤い鼻緒の下駄 揺れる煙突
- 小川正巳 世界 重い記憶 あにまの歌(抄) やっぱり一元論
- 玉本格 春の顔 西瓜泥棒 ――かに 内言 銭湯
- 海尻巌 骨(一) 骨(二) 骨(三) 骨(四) みち 老いた牝牛のひとりごと 白日夢
- なかけんじ ガラス PORT・TOWER 曲る 黙る
- 芦塚孝四 愛の歌(抄) 憩ひの歌
- 向井孝一 出発 出征 夏草 ある墓碑銘
- 安藤礼二郎 どびんご ふきのとう いろり 山鳩 母
- 桑島玄二 春の呼吸 柿の花 四季の呼吸
- 伊丹公子 舞鶴から 古町 春の町
- 和田英子 運南地区 通用門 一本のネムの木
- 中村隆一 言葉の海で 金物店にて 除夜 埋める 若い茎
- 西本昭太郎 麦の距離 扼された空 冬の座から 優しき鳥
- 君本昌久 あなたに 比喩ではなく この平和 十二月 時雨が降っている 悲しみ 柘榴
- 喜谷繁暉 仏陀 寒山 十字架 母 漂う部屋 象の村 舞扇 夏草 川 泉 霊屋 椿
- 福井久子 真昼の鐘 旅 まどりがる 予感 鳥の誕生 着い時 対話
- 伊勢田史郎 廃れた運河から もひとりの男 ガラス戸の外 芹生 霧のなかへ あらしの日のノート 鎖場への途
- 藤村壮 めぶくもの めぐる鳥 発端へのいろは唄 こぎと
- 丸本明子 街 四次元 カンザシ 春雷 蓮の花
- 鳥巣郁美 曲る 紫煙 澄む 風のない夜 背中を
- 直原弘道 たとえばあなたは…… ウイグルの農夫 オアシスの夜 牧民たちの午後 わかものたち ひるぜん高原の夜 山あるき
- 多田智満子 花火 パンタ・レイ 朝の夢 微風 闘技場Ⅰ 闘技場Ⅱ 闘技場Ⅲ 夏の魚 春 煙 井戸 鳥たち
- 久坂葉子 りんご かえりみち 往(い)んだ人 月ともものみ 作家の死 鳥と私 心の根底
- 安水稔和 鳥 鳥よ 魚 歌 島から わたしたちの街 狐の館 葉書 土のなかで 藤富
- 山本美代子 鮫 あじさい 口よせ 踏絵 庭師3 庭師4 庭師9
- 香山雅代 黙示録 世界が円筒にみえたところから 雲をふんできた 幻想の窓 揺らぎながら
- 青木はるみ 罠 零れる 鯨のアタマが立っていた 水切り 往馬坐伊古麻都比古(いこまにいますいこまつひこ)の火まつり
- 赤松徳治 耳と海鳴り 見知らぬ母 一期一会
- 鈴木漠 眠らない馬 舟 風雅抄 管について 馬よ 抽象
- 松尾茂夫 驟雨 樅の木のある庭 ブランコに乗った鳥 明石郡大久保町中の番
- 平田守純 母 系図 神戸便り(一) 神戸便り(二) 神戸便り(三) 集合 田園情話
- 季村敏夫 茱萸と夕焼け 染まずただよう 暮れ沼にて ひよこの庭 性のあわいで
- 梅村光明 檸檬剽窃 宙 旅 行きたしと思へどもスペイン きみは時代のバックコーラス 今はのきみのいのちひとつ
- 時里二郎 夢前川に関するノオト 肖像Ⅰ
- 大西隆志 ふたり一緒に 屈折率は気儘に走る 近距離の色 いま、大きな川が……
神戸戦後詩年表 1945(昭和20)年~1983(昭和58)年
後記