1970年9月、あんず舎から刊行された小川アンナ(1919~)の第1詩集。扉は青木利津子。
私が「小川アンナ」という名を作ったりして、短歌的抒情の世界を脱皮しようとしたのは、三十才も半ばを過ぎた頃だった。戦争と三人の幼児を亡くした後に、やっと私というにほんの女の上にも変革の時がきたのだった。
しかし私は短歌を識る前の若い自分の中にあったあるものが、にほんの女という一つの器にとじこめられることに反撥する粗野で自由で、生命力あふれたものであったことを、ひそかに自分でも知っていたように思う。私はとらわれた魚が渾身の力ではねるように自分の復活を欲した。生れたのが「巷で」だった。以来、詩を書くことで生きる道を切り拓いてきたおもいがする。私にとって生きるということは、先づ言葉が先にやってくることだった。今もそれは変らない。愚鈍で知性に乏しい私にも、神の恵みがあって、言葉がどこからか自分の中に降りてくることによって、私は自分のゆくべき道と、また己れみずからが何者であるかを知らされてきたように思う。
したがって私の詩に一種の甘えのあるのも、言葉に倚りすがり、その美に遊び溺れやすい為であろうかと自戒している。
私は一九六九年秋で満五十才という年令になった。あと五ヶ月もすればもう五十一才である。橋を架けないうちに水が充ちわたってしまいそうな心にせかされている。拙い一巻を編んでわたしの五十年のしるしにする所以です。
(「あとがき」より)
目次
にょしんらいはい
- 巷で
- 期
- こまつなぎ
- 菊
- そのことの内部に
- 嵐がやってくるという静かな晩に
- 壷1
- 壷2
- にょしんらいはい
- 霊歌
- ちちのうた
- わたしらの愛
- 貧しきマリヤ
短章
- いちぢく
- 月
- 掌
- みずかがみ静かに写しみたまえや
- 母心誕生
菜の花へんげ
- 菜の花へんげ
- 夏菊
- ひまわり頌歌
- 娘の秋
- 女の家
- 女たち
季節とわたし