1992年6月、感動律俳句会から刊行された萩原アツの随筆集。著者は自由律俳人・萩原蘿月(1884~1961)の三女。
『障子の棧』は、昭和五十四年から同六十三年の間、年に四回ぐらいでる短歌同人誌「藍」に載せたものですが、多少書きなおして一巻と致しました。
早いもので、今年は父の三十一回忌に当り、その命日まで何んとしても、本書を出したいと、予てから思っておりましたが、いざ改めて書き直しているうち、正直にいって、父の事を書く辛さに、途中で、幾度か書くのを止めようと、思ったこともあります。
それは、言うまでもなく、私の拙い文章のため、父の本当の精神を傷つけるのではないかといった怖れと、また一方では、喜怒哀楽の激しい、持って生まれた父の性格の痛ましさ、悲しさ、「家族ノ犠牲マタ止ムナシ」と言う父の言葉の意味が、今になって、切ないほどようやく理解出来るようになったからです。
とは言え、書くことの辛さは変りなく、私は何度か内田南艸氏に御相談し、その都度、暖かい励ましの御言葉に勇気付けられたか知れません。氏の励ましがなければ、おそらく私は途中で匙を投げてしまったでしょう。
題名は別に深い意味はなく、私の個人的な思いですが、現在、障子のない団地住いの私には、戦前のよき時代、朝々、障子の棧にはたきをかける時の、あの軽やかな音は、何んとも言えない郷愁を呼び起こされますと共に、題名そのものに、何処となく俳句的ではないかと思い、表題としました。
(「あとがき」より)
目次
- 障子の
- 五月人形
- 夜の若葉
- 水涸るる
- 焚火の火
- 茶碗
- 花火
- 金盞花
- 白い封筒
- 里神楽
- 桐一葉
- 秋草
- 参禅
- 吹雪く日
- 震える心
- すず風
- 草かげ
- 昼の芒
- 秋の小虫
- 山吹の花
- 酔ふた太陽
- 芍薬の花
- 雪の上
- 日ぐれの音
- 菊のひこばえ
- 草の神経
- 渋団扇
- 樫の木
あとがき