2008年1月、スパイラル/ワコールアートセンターから刊行された葉山有樹の小説。ブックデザインは古賀義孝。
二〇〇七年、東京の複合文化施設「スパイラル」で行った私の個展を契機として幾つかの出会いがあり、その中でフィンランドでの個展開催が決まりました。
日頃から広く世界を見ている心算でも、実際にはフィンランドについて僅かな知識しかない事に気づきました。
国土や気候、人口等の情報は、インターネットで入手出来ますが、フィンランドの歴史や文化、心情を知る縁として「カレワラ」という国民叙事詩を繙いたのです。
これは、とても不思議な体験でした。
日本とは遠く離れたフィンランドの地で古くから伝えられて来た雄壮な叙事詩が曾て私が愛読した日本の先住民族アイヌの人々の叙事詩「ユーカラ」や日本の「古事記」と奇妙に同調するのです。
又、これまでの学習で、この同調する神話の波紋が中国大陸・インド亜大陸・古代オリエントからギリシャにまで広がっている事に気付きました。
私の想像力がふくらみ、気付いた時には原稿用紙に向って、この物語を書き始めていたのです。
(「はじめに」より)