1993年10月、砂子屋書房から刊行された尾崎与里子の第4詩集。刊行時の著者の住所は滋賀県彦根市。
「風の家」へ引越して長い時間が過ぎました。幼かった子どもたちは成長してそれぞれの道を選び、彼らの傍らで暮らした日々は、すこしずつ思い出になっていこうとしています。それは、秋の遊びのような静かな明るさと、ささやかな収穫と、次の季節への予感を身のまわりに残し、私は素直な気持ちで自分の周辺を見つめながら、時間をそのまま言葉にしたような詩をいくつか書きました。薄い表層を掬った作業を辛うじて支えているのは、どの詩の時間も生きていた、というささやかな実感です。
湖に沿ったふたつの小さな城下町。彦根の「風の家」には家族が、長浜の生家には両親が、そしてどちらの家の片隅にも私の仕事場があって、毎日のようにふたつの町を行き来します。これが暮らしのすべてですが、それぞれの町に住む友人や精霊たちのおかげで退屈を知らずに、これからも湖のほとりで暮らしていけそうです。秋の遊びのあとは冬の腐葉土のなかで次の迷路を……
(「あとがき」より)
目次
Ⅰ わかれ
- 野
- 禮
- 別
- 橋
Ⅱ 風の家
- 湖水風
- 夏の月
- 秋の音
- 冬の家
- 雪
Ⅲ 天女
- 天女
- 決断
- 夏眠
- インドの女王
- 発熱
- 秋陽
Ⅳ 馬酔木
- 馬酔木
- 凍夜
- 円環
- 少年
- 山荘へ
Ⅴ 麻布
- 麻布(りんねる)
- 母の時間
あとがき