1998年10月、海風社から刊行された金時鐘(1929~)の詩集。装幀は粟津謙太郎。陶院叢書2。
日本語で詩を書くことの無力感から私はまだ脱けきらない。この十年、社会主義圏の崩壊もまた私の生き方を揺るがして、詩を書く気力を減退させた。すべてを見直し、整理していかねばならない必要にずっと迫られている。まずは肩肘張らない作品集からでも始めよう、との思いでこのこまぎれの詩集を編んだ。
収録した作品の多くは新聞雑誌にとびとびに発表したものだが、恥ずかしくて初出は明かせない。年月もまちまちなら、題材の脈絡もばらばらだ。どだい詩は請われてからしか書かなかったのだから、なによりも私はこの怠惰な不遜さからこそ、脱すべきだろう。素朴にそう思っている。努めて書こう、と心に決めている。
(「あとがき」より)
目次
- 予感
- 等しければ
- あるひとり
- 化身
- 染み
- 化石の夏
- ここより遠く
- ある終り
- 自問
- 虎の風景
- 不眠
- くりごとえんえん
- 山
- 喪
- 猪飼野橋
- 果たせない旅
- 崖
- 空席
- 帰る
- 祝福
- この朝に
あとがき