2001年9月、書肆青樹社から刊行された鎗田清太郎(1924~2015)の第5詩集。第9回丸山薫賞受賞作品。刊行時の著者の住所は町田市。
この詩集は前詩集『幻泳』(一九九〇年)につづく第五詩集である。一一年もの間隔があいたが、詩作量が減ったからではなく、一身上に都合があって、詩集を編むことに専念でき難かったからである。
そのために制作年代に時間差のある作品が混在することになったが、私の第一詩集『象と螢』(一九七二年)が三〇年間の詩稿から成ったことを思えばまだしもの感もある。
また、私は一定期間に一定の小テーマで書きつづける方ではなく、つねに一作一作を単独に新しいものとして書いてきたし、一貫したテーマは「真に詩的なものの表現」ということであった。それは明確なようでいて明確でなく、私などにはついにとらえられないものであるかもしれないが、そういう目的意識だけは一貫してもってきたつもりである。
「詩的」とはまず散文の「日常性=現実性」に対して、「非日常性=非現実性ー幻想性」として考えられる。しかし、そこにとどまるものではなく、その「幻想性(暗喩化)」から、さらに日常性を「逆照射」し、そこに真のレアリテを実現するものでなければならない。もっと精説すべき問題であるが、ごく大雑把にいえば、そんなことを考えながら書かれてきたのがこれらの詩作品である。少しでもその実はあがっているだろうか。
作品は詩材・傾向から大まかに分類して排列した。Ⅰはコラージュ、象徴性のつよいもの、Ⅱは主として旅に取材したもの、Ⅲは故人追悼、Ⅳは戦争、軍隊に関するもの、Ⅴはミステリー性と病気に関してのものである。
前詩集以降における私の一身上の変化としては、四五年間身をおいた出版界から引退したこと、六〇年も住み馴れた東京池袋から郊外地の町田へ転居したこと、著書を三冊、編著を三冊出したこと、生涯無病だったのが変形性膝関節症の発病で苦しんだこと、発病期間をのぞき海外を含めての旅行が多かったことなどがある。詩集にこれらの変化も反映しているかもしれない。
(「あとがき」より)
目次
Ⅰ
- 日
- 死覚め
- 雪の主題によるコラージュ
- 鳥の主題によるコラージュ
Ⅱ
- 地名の旅
- 吉備路行から
- 南紀・熊野幻想行
- 水橋
- 花の名前
- 詩「神の池へ」異聞
- トゥングタ
- 南方抄
- わが界隈
Ⅲ
- 聖徒行伝
- 思い川の馬
- 遠い夏の葬式
Ⅳ
- 苦い旅
V
- K町の古歌
- 靴を探す
- アウシュヴィッツ
Ⅵ
- アリバイ
- M事件と私
- 病幻記Ⅰ
- 病幻記Ⅱ
あとがき