2015年3月、未来社から刊行された高良勉(1949~)の評論集。著者は沖縄島南城市生まれ。
やっとこの第四評論集を出版することができた。本書は、『魂振り 琉球文化・芸術論』と対を成している。
しかし、二〇一一年に『魂振り』が上梓されてから四年が経過してしまった。この間に重大な病気をしてしまい、私の編集作業が進まなくなった。だが、未來社と西谷能英社長が忍耐強く私を見守り、タイミング良く激励して出版までこぎ着けてくださった。
本書では、準備していた原稿の約三分の一しか収録できなかったが、三部に分けて編集されている。第一部は「琉球弧からの詩・文学論」の比較的長い理論的な評論を集めた。第二部には、「琉球弧の詩人・作家論」として「詩人論」と「詩・俳句・短歌書評」、「小説・記録文学・散文書評」を収録した。ここで、短文ながら多くの書評を紹介したのは「琉球弧の詩人・作家・文学者」の作品をできるかぎり多数、具体的に論じてみたかったからである。また、そのことは琉球弧の詩文学の第一次資料として詩・文学史にも活用できるようになればという願いも込めてある。第三部では、「アジアの詩・文学論」を編集した。そしてここには「日本の詩人・作家論」と「東アジアの詩・文学論」を収録した。琉球弧以外の詩・文学論をひとまず東アジア規模で整理し、それ以外のボルヘスやローゼンバーグ等の外国の詩人、作家論は割愛した。
これらの評論が、「詩・文学論」としてどのようなレベルと価値をもっているかは、心もとない。しかし『魂振り』にも書いたように、ここが私の「詩・詩人・文学論」に関する主戦場であった。そして、『魂振り』と『言振り』が対を成して読まれることによって、私の文学・文化・芸術論が「言魂論」として体系的に理解してもらえれば幸いである。私の評論が、北は奄美群島から南は八重山群島までの琉球弧に立脚し相対化しながら、可能なかぎり普遍的な論議に届いて欲しいと願うばかりである。「言魂」を大いに振り、読者と共振することを祈っている。
(「あとがき」より)
目次
Ⅰ 琉球弧からの詩・文学論
Ⅱ 琉球弧の詩人・作家論
・詩人論
- 地球詩人の一〇〇年 山之口貘生誕一〇〇年
- 日本の本当の詩は……山之口貘生誕一一〇年祭記念
- 新屋敷幸繁の鹿児島時代
- 孵化と転生への祈り あしみね・えいいち論
- 優しいたましひは 追悼 知念榮喜
- 飢渇の根の自我否定と自己表現 川満信一詩集ノート
- 詩と批評の自立へ 清田政信詩・小論
- カンヌオー(神の青領)の水底から 山口恒治論
- 意味と言葉 水納あきら詩ノート
- 故郷への苦い旅 真久田正詩集『幻の沖縄大陸』
・詩・俳句・短歌 書評
- 記録と沈黙 『牧港篤三全詩集・無償の時代』 書評
- 大きな文化プレゼント 書評『南風よ吹け オヤケ・アカハチ物語』
- 戦後体験の基層へ 中里友豪詩集『コザ・吃音の夜のバラード』
- 豊饒な魂 勝連繁雄詩集『灯影』
- 沖野神話満ちあふれる 沖野裕美詩集『無蔵よ』
- 大胆な実験的詩集 上原紀善詩集『ふりろんろん』
- 精神の軌跡を鮮烈に表現 砂川哲雄詩集『遠い朝』
- 母くぐりの彼方へ 松原敏夫詩集『アンナ幻想』
- 新しい詩の地平へ おおしろ建詩集『卵舟』
- 感性力と 思想力 桐野繁詩集『すからむうしゅの夜』
- 優しさとリズム 書評・山中六詩集『指先に意志をもつとき』
- 批評精神と豊かな詩語 宮城隆尋詩集『盲目』
- 始源の海へ 下地ヒロユキ詩集『それについて』
- 骨太で直截 野ざらし延男句集
- 書評・玉城一香『地の力』
- 豊かな詩情 崎間恒夫『東廻い』
- 知性と感性 おおしろ房句集『恐竜の歩幅』
- ひたすら・ていねいに 玉城洋子歌集『花染手巾』
・小説・記録文学・散文 書評
- 日本・人間を問う移民文学 大城立裕 『ノロエステ鉄道』
- オキナワから世界へ 評論・又吉栄喜の文学
- 島・宇宙の美しさと残酷さ 島尾ミホ『祭り裏』
- 七島灘を越えて 安達征一郎著『憎しみの海怨の儀式』
- 世界への飛翔 米須興文著 『マルスの原からパルナッソスへ』
- すべきだ、を越えて岡本恵徳先生追悼
- 国境なき沖縄文学研究 仲程昌徳著『沖縄文学の諸相』
Ⅲ アジアの詩・文学論
・日本の詩人・作家論
- 中也の苦い思い出
- 宮沢賢治と沖縄
- 黒田喜夫と宮古歌謡
- 南島論の動向 <未来の縄文〉への旅
- いま「南島論」とは
- 吉本隆明との出会いと別れ
- 私小説の概念を変える 島尾敏雄論
- 島尾敏雄の死と課題
- 谷川雁と沖縄
- 詩歌の内在律と風土
- 阿部岩夫氏への書簡
- 吉増剛造氏への書簡 「古代天文台」のような感性
- 藤井貞和と琉球弧
・東アジアの詩文学論
- アジア文学案内 文学者との交流史
- 沖縄からみた韓国詩
- 宇宙方言のイジュングチ(泉口)
- 自然との対峙 金時鐘詩集『失くした季節』
- 李恢成と第三世界文学
- あいえー・あいえーなー
- 人生に大きな影響『魯迅選集』全十三巻
- 批判力と思想の深さ 引きつけられる風景描写 黄春明 『さよなら・再見』
あとがき