1974年7月、国文社から刊行された宮城賢(1929~2008)の詩集。装幀装画は安達三男。著者は熊本県八代郡氷川町生まれ。
これらの作品は、私の書いたものとしては異例に早くヘソの緒を切って落されることになった。時期的には、一九七二年一月から七三年六月までの一年半に書かれたもので、一冊に編むにあたって半年ごとに仕切りを設けてみた。Ⅰ、Ⅱ、Ⅲがその仕切りである。ⅠとⅡの間に、実生活上の転居が介在しているのだが、この転居は、上京して二十数年を経た間に私が経験したどの転居よりも、時代の現実とぶつかり合うことをしいられた。私たちは、もはや、自分の「願ふ場所」を現世での〈ついの棲家〉として選ぶことが不可能となっている。しかし、「虎穴に入らずんば虎児をえず」の意気込みを自分に課すことで私は高所居住者となったのである。
収めた作品のうち、Ⅰのすべては小高根二郎氏編集の『果樹園』一九三号~二〇三号に発表され、Ⅱの冒頭の三篇は同誌二〇五号(終刊号)に一挙掲載されたものである。一つの不気味な〈自死〉によって詩筆を動かせないでいた私を心配されてか、小高根氏は同人でも会員でもない私に、乏しい誌面の一部をあけて根気よく待っておられたと思う。そして、時の経過とともにあの〈自死〉は、私を奮起せしめる方向に作用しはじめたのであった。ここに記して、小高根二郎氏に感謝を表せずにおられない。なお、Ⅱの「駅前寸景」、Ⅲの「石の家系」および「幸福の手紙」は、「現代詩手帖』一九七三年七月号に掲載された。その余はすべて、ここに初めて活字となるものである。
(「あとがき」より)
目次
Ⅰ
- 自立
- ドルショックなんてない
- 反射鏡の虚像
- 峠の美風
- 単語的存在
- ゴルフとパチンコ
- 散歩道の苦悶
- 吾輩は蜘蛛である
- 誤植あるいは文字の変身
- 雜草頌
- 樹木への訣れ
Ⅱ
- 甦った一票
- 汚れた手
- 血
- 引越し
- 仁義について
- 籤について
- 空中動物園
- 虫の唄
- 米の危機
- 駅前寸景
- 時間と影
Ⅲ
あとがき