2013年5月、書肆山田から刊行された林美脉子(1942~)の第6詩集。装幀は亜令。著者は北海道滝川市生まれ、刊行時の著者の住所は札幌市。
一昨年上梓した詩集『宙音』は、二十数年前に書き終えていながら出版するきっかけを失い、長く放置されていた作品を納めたものである。従って私は二十年以上の歳月を、目まぐるしく展開する現実と格闘しながら言葉を失い、詩を完全に放棄していたことになる。
その間私の心襞にはうす光るなにものかが日々堆積していったが、それらを言語化する余裕のないまま時は瞬く間に過ぎていった。昨年七月、同郷の詩人が書いた一冊の詩集が強く心に響いてきて、ふいに失語から解放された。私は詩を捨てたが、詩は私を捨ててはいなかったのだ。
言葉が戻ってきた時、長く堪え封印してきた諸々のものが呪縛から解き放たれて、向う側から一気に溢れ出てきた。そのいくばくかをここに掬い書き留めた。
掬えなかったものや零れ落ちていったものもあるが、この半年の間に出現してきた作品を「書き下ろし」として纏め、無言の裡に逝った魂への鎮魂としたい。
私の詩は時に難解と言われるが、この詩集を含めこれまで書いてきた作品の全ては私の生のドキュメントである。そしてこれまでもそうであったようにこれからもまた、これらの詩篇は私を先駆け私の肉体を待ちわびていくのだろう。
(「あとがき」より)
目次
Ⅰ
- 凍泥の河口
- 惛森
- 夕焼ける三〇一号室
- 呪い唄
- 屍口門
- 飛ぶ氷礫の国道十二号線
- 暁の聲
- りぶれ
- 非の渚
Ⅱ
- 夷の国神呪――占弦の巻
- 夷の国神呪――幎布の巻
- 月楼
- 黄泉幻記