2000年11月、花神社から刊行された古谷鏡子の第4詩集。刊行時の著者の住所は練馬区上石神井。
三冊目の詩集『眠らない鳥』をまとめてから十年近く経ってしまった。
いまその後の作をまとめようとして、私はすくなからず戸惑っている。戸惑の気持は、たぶん、この十年という日々が私のうえに投げかけていった影のようなものの仕業、わずかばかりの心変わりによる、変容にあったようだ。生活の仕方が変わったのでも、それほど多くを書いてきたわけでもないのに、と思う。
しかし一方で、おなじ語法、おなじ詩句にもであう。これも戸惑の原因である。『眠らない鳥』のあとがきに、私は「遠くへ飛ぶことを夢みている」と書いたが、このことは、いつまでたっても飛べずに、地上をさまよっていることを意味しないだろうか。大切にまもりつづけてきて、これからも守ってゆかねばならぬ、自分の部屋、自分だけの庭がないのだから、飛ぶことを夢みながら、中途半端にそこらへんを漂っているのも、またやむをえぬことかもしれない。
(「あとがき」より)
目次
- 木を聴くひと
- 匂う木、笑う木
- はんかちの木にはんかちの花が咲き
- 林檎の花のさかりのときに
- その木を伐るなかれ
- 鳥のように 木のように
- 木、またの名を
- リュウジョのうた
- 植物の家
- ばら園
- 発語の光景
- タチツボスミレ
- 透視図法
- たとえば日常
- ぼくはルーマニアから来ました
- 断片的な、冬の町を
- 北へむかう少年
- ゆるやかな坂道
- 夏日幻像
- 記憶の先端にいる、鳥
- 耳の壁
- 六月の机
- 秋ノ田ノ刈穂ノ傘の
- ポン・ヌフをください
- 夏の仕事
- 小石の誕生
- 花の香、そして虹
あとがき