1993年10月、思潮社から刊行された野沢啓(1949~)の第3詩集。装幀は戸田ツトム+岡孝治。著者は東京都目黒区生れ。
『大いなる帰還』『影の威嚇』につづく十年ぶりの第三詩集である。初出一覧を見てもらえばわかるように、前詩集刊行以前のものから数年間にわたって書いた作品がかなりの部分を占めており、本来はもっと早く刊行されねばならないものであった。それでもここ二、三年のものにはいくらか新境地も開かれていると自分では思っているので、この遅れにも意味がないわけでもない。すでに新しい連作に取り組んでおり、いまはむしろふたたび詩を書くことに意欲的になっている。詩集のタイトルを『決意の人』とした理由のひとつでもある。ゲラを読み直してみていまさらながらに気がついたのは、詩のモチーフが自分の生活の場所(とその変化)になにがしかのかかわりをもちながら、それら背景にことばでしか表出することのできない観念世界を自分なりに形式化しようとしてきたことである。その意味では、日常現実と観念世界との双方に牽引された作品世界という位置がわたしの詩の位相なのかもしれない。もちろん、つぎの詩集ではこの位相からいかに脱却するかということに力点がおかれていくはずなのだが、いずれにしても、いまの若い現代詩とはおのずから指向する地点がちがってきているのを感ずることも事実である。
本詩集は、自分のかかわってきた「走都」「SCOPE」という詩誌のほかに、さまざまな詩誌に掲載させてもらった作品によって構成されている。それぞれの詩誌の主宰者ならびに編集者諸氏にこの場を借りてお礼を申し上げたい。
(「後記」より)
目次
Ⅰ
- 未決定多方通交路
- まつることば
- 花の眠り
- オン・ム・パンス
- かえりつくために
- 老師
- 恐怖論
- 決意の人
- 宇宙への挨拶
- 紙魚
- 風信
Ⅱ
- 正直者の感想
- 祭のあと
- 一瞬の春
- 北の窓から
- Lookin' around 84
- 反・自然論
- 木片
- 悪夢
- 書けなかった手紙
Ⅲ 小詩集
- さがす
- 最後の天才
- アキがくる話
- 「自明の理」
- メモ中毒
- 窓の秋
Ⅳ 虚無への供物
- 1虚無への供物
- 2ある台風の晩に
- 3過ぎていく夏
- 4休日
- 5時の澱
- 6ピラネージのように
- 7渇きの属性
後記