1987年4月、思潮社から刊行された千島数子の第1詩集。第23回現代詩手帖賞受賞作品。
人目をはばからず、あるいははばかることができずに書かれてしまうことばが詩には多い。他者としての自己、自己としての他者が入れ替りながら、書く主体にかかわってゆく。書きたいことは意識の中心にあるのではなく、無意識に近いところにある。そこにあるものは、天体や電灯のひかり、または闇というひかりによってはよく見えない。ことばで掘りおこした層、そのものから微細にあふれてくるひかりによってである。ひかりの色合いに漂う、書いている主体。それらの主体に、現在の自己は遠いところで辛く甘やかされているように思う。
家のなかの木の柱を見て、かって根を張っていた山や通っていた水分を思うようにことばを透視しつつ、ことばへは遠く、ことばからは近く、書く主体を置きたかった。
心の端が羽状になり、ちぎれてゆく。詩のことばは空へ逃げる生きものを追いかけるときに書かれるのかもしれない。輝くさみしさは空気だ。そう思い呼吸するとき、詩のことばを書くことにある僅かな驕りが少しやわらぐ。
(「後記」より)
目次
- 封筒
- トライアングル
- 未詳
- 冬の水面
- そのひとたち
- よこがお
- 火の前で
- ばら
- ゆるされず
- 朧
- 星空、星と空
- つゆくさ
- 五つの朝
- 塀
- 橋
- 草原
- 食卓
- 独楽
- 和音
- 虹
- わたしのせい
- 水彩
- ぬくもりの蕾
- 音楽
後記