1948年3月、青磁社から刊行された丸山薫(1899~1974)の詩集。装幀は中川一政。
これら五十篇の詩はどれも山の村で書いたものばかりである。只、このうちの略〃と半數を「北國」と名付けて、一昨年の秋、京都の臼井書房から公にした。いま、その後の作品をそれといつしよに纏めて出す。理由は別にない。私自身に、生れて初めての山ぐらしであつた二ヶ年間を記し、併せて、いつも私と共に在る少数の愛読者諸彦の記憶にも、それを遺さうためである。
「仙境」とは、私の住む現實――正確に言へば山形縣西村山郡西山村岩根澤の、月山につづく山腹と谿間に散らばる一帯の山人の世界――そこから立ち昇る雲である。私のからだはこゝに住み、こゝろはけむりの中に住んでゐた。
私が山の中で詩を書いてゐるのを評して、都會の或る若い詩人が「彼はもう分教場の窓から淡雪でも眺めてゐる方がいいだらう」と言つた。はて、淡雪といふものはいつたい何處の國で降つたらう? ことは元来、糊でつぎ貼りしたやうな人間にはくらせない荒々しい自然の中である。雪は三メートルも積り、しかも人が決してその中を歩けないやうにしか吹雪かないのだ。
(「あとがき」より)
目次
- 仙境
- なめこ狩
- 宿運
- 山の媼
- 鳥達
- 深山ぐらし
- 母の傘
- 谷沿ひの徑
- 雪への想ひ
- 雪がつもる
- 靜かな祭
- お月樣
- 遠い昔のやうに
- 北國
- お山の學校
- 綴方
- 白い自由畫
- あしあと
- 狐
- 日本の良心
- 陰曆
- 曠野
- 鶴部
- 虹
- 高い村
- 獨居
- 冬の夢
- 春の朝早く
- 早春
- まんさくの花
- 花の空想
- 北の春
- 雪蟲
- 春を呼ぶ
- 山のさくら
- あの人達
- 小春
- 燕
- 新芽
- 花と山羊
- 川をころがる石
- 風土
- 殘雪
- 村を登れば
- 美しい想念
- 春の夜
- 綠の敎室
- 蝶や鳥
- 水田の中に
- 三光鳥
あとがき