んの字 小沢信男句集

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 2000年4月、大日本印刷ICC本部から刊行された小沢信男(1927~)の句集。編集は本とコンピュータ編集室。ブックデザインは平野甲賀(1938~)。

 

 以下、遺作集成のつもりで本書の内訳を申告します。
 最初の句集『東京百景』は、一九八五年八月に名古屋豆本第九十四冊として刊行されました。六十句と雑文少々を収めますI豆本板元の亀山巌氏から突然お声が掛かってこうなった次第は、以前に書いたので省略として。当時は久保田万太郎句集一冊がお手本で、他は眼中になし。万太郎句にはしばしば魅力的な前書きがあって、その模倣をこころがけました。いまみればいかにも初心、季重なりもなんのその、地名プラス十七文字という作品をつくるんだ、という料簡でいたようです。
 一九八九年六月には、河出書房新社より福島紀幸氏のお骨折りで、短篇小説とエッセーと俳句を一冊にまとめて刊行され、題してやはり『東京百景』。俳句の章にはさきの豆本をそっくり含めて九十句。この間四年がかりで三十句しか増えなかった勘定です。本書の『東京百景』の章はこれに拠っております。こんなものでも八〇年代の東京暮らしのマイクロ・ドキュメントと、言っていえなくもないかと存じます。
 次に、一九九六年六月に、小句集『昨日少年』を、大西和男氏のお骨折りで夢人館より刊行。一枚の紙の裏表に刷って四つに畳んだ小粋なパンフレットで、六十二句を収め、辻征夫氏の跋文を添えました。
 次に、一九九八年八月に、かさねて大西和男氏のお骨折りで、句集『足の裏』を夢人館より刊行、百五十四句を収めました。これまでの二句集を合わせた数よりも多いのは、拾遺も含むが、近時、三つの句会にかかわっているもので、おのずからの生産性向上でした。
 一つは、辻征夫氏たち現代詩人十数氏があつまる「余白句会」で、もう十年を越えます。『OLD STATION』(井川博年氏の編集)という不定期の機関誌さえもち、その第十号では『足の裹』の誌上出版記念会をしてもらいました。
 あと二つは、墨田区生涯学習講座のご縁でできた月例の水曜句会と金曜句会で、もう三、四年になる。土地柄かざっくばらんな、余白句会同様に笑いの絶えない句会です。
 この調子なら、いずれまた一冊分が溜まるだろうと、おもうまもなく突然『全句集」のお話で、人生いつなにがおきるやら。次の句集につけるはずの『んの字』を、そこでこの「全句集」の表題ともしました。四冊目の句集にはちがいないから。
 余白句会のお仲間の多田道太郎氏が、懇切な跋文をお寄せくださり、ご芳情に胸がふさがります。辻征夫氏の急逝に、句会一同衝撃のなかにいますが、おもえば私にも一番長い句友であった。一本を氏の霊に献じます。
(「あとがき」より)

 

目次

  • 東京百景(九十句)
  • 昨日少年(五十八句)
  • 足の裹(百四十九句)
  • んの字(五十七句)

跋   多田道太郎
あとがき

 

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ぼくの博物誌 玉置保巳詩集

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 1996年10月、編集工房ノアから刊行された玉置保巳(1929~)の第5詩集。装画は早川司寿乃(1959~)。

 

 定年退職をして、すべての雑用から解放されたら、この世を去るまでの、残り少ない日々を自分自身の楽しみのために使はねばと思ってゐた。
 その一つは、何度も読みかけては抛棄してしまったマルセル・プルーストの『失われた時を求めて』を読む仕事だった。しかし、今度、久しぶりに読み返してみて、この書物が、どんな睡眠薬も及ばぬほどの力で、ぼくを眠りの国にひきずり込んでしまふことを、あらためて思ひ知らされた。それは、ぼくがこれまでに幾度も挑戦しては中断してしまったフランス語や微積分とは比べものにならぬ強力な睡眠作用を持ってゐた。
 今、ぼくが眠らないで没頭出来るのは、宇宙物理に関する書物博物学者の評伝を読むことと、各種の図鑑を眺めることくらゐである。植物図鑑、鉱物図鑑、魚類図鑑、昆虫図鑑、恐竜図鑑などなど、図鑑を眺めることは、じつに楽しいが、残念ながら、これらの図鑑は皆、重すぎて、ベッドの上で仰向いて眺めてゐるわけにはゆかない。沢山の図鑑の中で、ただ一つ、寝そべって仰向いて眺めることの出来る小ぶりの図鑑がある。それは、保育社の『原色日本海岸動物図鑑』である。この図鑑をひらくたび、ぼくはたちまち磯の潮だまりの中の不思議な生き物たちに見とれてゐた幼年時代のただ中に帰ってしまふ。花野のやうに群れるイソギンチャクたち、岩の割れ目にうごめくカメノテフジツボ、ヒザラ貝、ウニ、ナマコ、ヒトデたちはいふまでもないが、潮だまりの、おしゃれな住人であるアメフラシウミウシたちの原色に輝くあで姿が図版の中に勢揃ひしてゐる。レイチェル・カーソンならずとも、かつてぼくを優しく抱いてくれた潮だまりの生き物たちの無事を祈らずにはゐられない。
 詩集『海へ』を出してから、六年の歳月が流れた。今度の詩集は、作品をまとめてゐて気がついたことだが、自然の事物をテーマにしたものが意外と多い。そこで、それらを「ぼくの博物誌」として前半にまとめ、主として幼時の体験をテーマにしたものを「レクイエム」として後半においてみた・もちろん、前半と後半が歴然と異質であるといふわけではない。
 詩集『海へ』のときと同様に、今度の詩集も、気鋭のイラストレーター、早川司寿乃さんにカバーと扉の絵を描いて頂いた。
(「あとがき」より)

 

目次

I ぼくの博物誌

  • 平行宇宙論
  • ミミズ
  • イチモジセセリ
  • 虫供養
  • 蟻とシジミ蝶
  • 僕らの世界
  • 異星人たち
  • 鬼グモとカリウド蜂
  • ぼくの恐竜
  • 再会
  • 地球の水たまり
  • ウイルス
  • バクテリオファージュ
  • アノマロカリス
  • 博物学者たち

Ⅱ レクイエム

  • 帰郷
  • 海のほとり
  • リカオン
  • 末っ子
  • 二人の母
  • ぽくのオルガン
  • 聖母子像
  • ある日の出来事
  • ポケットの中
  • 永訣
  • 生のかがやき
  • 死者たち
  • アウシュヴィッツの星の上で
  • スペインの牛
  • 病院日記より
  • 病後
  • 夜半に
  • 雪国の春

あとがき

 

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風汲 尾崎与里子詩集

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 1986年10月、エディション・カイエから刊行された尾崎与里子(1946~)の第3詩集。装幀は山本容子(1952~)。

 

 湖に近い葦の原で、ほのぐらいものが飛び交うのを見たのは、はじめて猫を抱いた日でした。しずかに爪を立てて燃える猫の顎の下へ手をさしのべると、小さく鳴き、逆らわないものを、私は炎のようだと思いながら、撫でているのでした。
 口紅のようなやくそくをして、夢の歯止めが効かなくなることを承知で物語を書きたいと思ったのですから、どこまで恥ずかしいのだろうと、葦の原に猫を放して、淡く拡げていきました。
 抱かれても名づけられないまま紅く滲んだ猫は、もっとやくそくしたいと、じっと私を見つめました。青い葦の花穂は徐々に熟れて、暗い色の実になり、季節がおわるころには白い穂絮(ほわた)になって遠くへ飛び散っていきます。
 はなぎつね、夢虫、風汲、と辿りながら、私には区切ることができなかったので、時間はその都度少し凝るように過ぎました。
(「あとがき」より) 

目次

  • 桜 さくら
  • 尾 お
  • 蝕 むしばむ
  • 肩 かた
  • 家 いえ
  • 産 うむ
  • 翼 つばさ
  • 桃 もも
  • 月 つき
  • 蝶 ちょう
  • 燃 もえる
  • 沼 ぬま
  • 春 はる
  • 朱 あけ
  • 湄 ほとり

 あとがき


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心の四季 南川潤

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 1941年11月、淡海堂出版から刊行された南川潤(1912~1955)の少女小説。装幀は安本永。「少女画報」連載。

 

目次

  • 心の四季
  • 新しき日に
  • 光ある道

 

関連リンク
古本夜話314 淡海堂と南川潤『心の四季』

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幸福問答 藤澤桓夫

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 1943年9月、春陽堂書店から刊行された藤澤桓夫(1904~1989)の長編小説。装幀は田村孝之介(1903~1986)。

 

目次

  • 美しき姉妹 
  • 訪問客 
  • 菊薰る 
  • 母の意中 
  • 手紙 
  • 悲しき争い 
  • 秋ゆく夜に 
  • 母の相談 
  • 来ぬ人を 
  • 声 
  • 愛情の位置 
  • 珠墜つる音 
  • 春浅く 
  • 愕き 
  • 喪の家 
  • 何故の涙 
  • 暗い表情 
  • 最初の争い 
  • 無名画家 
  • 密は苦し 
  • 相談 
  • 明るい朝 
  • 共同水道端 
  • 画家の仕事 
  • 純情 
  • 或る空虚 
  • 不吉な予感 
  • 千佳子の願い 
  • 壁画を描く人 
  • 来客 
  • 惧れ 
  • 新しき淵 
  • 霹靂 
  • 楽しい仕事 
  • 千佳子の場合 
  • 視線 
  • 横顔 
  • 再会 
  • 心の扉 
  • 男の義務 
  • 不幸な遇然 
  • 翳 
  • 妹の頼み 
  • 反省 
  • 拒絶 
  • 外出勝ちな妻 
  • 晩䬸の味 
  • 指環 
  • 構想 
  • 速達 
  • その家 
  • 悲しい発見 
  • 客 
  • 汚辱の限り 
  • 凶報 
  • この愛情 
  • 新しき生へ 
  • 清秋 
  • 光溢れる日に 
  • 明日 
  • めぐりあい 
  • 運命の線 
  • 画廊 
  • 喪失 
  • 冬の海 
  • 旅立つ人 
  • その面影 
  • 心の距離 
  • 悲歌 
  • 一夜 
  • 断崖の思想 
  • 豪雨の中へ

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MARIANA magicienと髑髏(されこうべ)のうた 杉本駿彦詩集

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 1960年11月、吾妻書房から刊行された杉本駿彦の第3詩集。装幀は亀山巌

目次

  • 第一章 海の唄声
  • 第二章 珊瑚礁と花
  • 第三章 朱の反撃
  • 第四章 放縦な手で

詩集おぼえがき


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