1983年12月、書肆季節社から刊行された衣更着信の翻訳詩集。装幀は政田岑生。
わたしが詩の翻訳をするようになったのは、あきらかに中桐雅夫の影響による。終戦間もなくの香川県知事選挙が、戦後の地方選挙を占うモデルとかで、各新聞社の本社記者がそろって高松へ来た。読売の政治部の少壮、中桐記者もその一人だったわけだが、顔を合わすなり、シットウエルの詩の一行の意味がなっとくできないが、おまえどう思う?といって、手近かのメニュかなにかにそれを書いて見せた。それは戦雲の迫る昭和十六年にわたしが東京を離れて以来、戦争をへだてての再会であった。戦中戦後の一時期は、とてもカレンダーでは測れない長い苦しい時間であって、その間両人の生活に兵役、病気、失業といろいろあったのだけれど、かれにとってはそんな話題は二の次なのであった。
訳詩がそれほどの情熱に価するなら、自分ちひとつやってみようと思ったのがきっかけであった。以来、興味と慰めに導かれるままに、読み進んだ結果がこの本になった。あくまで「研究」や体系は関係がない。読者もまた訳者と同じ楽しみを発見してくれるならば幸いである。昭和五十二年六月 訳者
付記
この訳稿がある出版社に預けられたままになっていたのを救い出してくれたのは政田岑生氏であった。〔その間にロウエル(一九七七)やレクスロス(一九八二)などは死んでしまった。しかし、時間の経過によって詩の価値が下がったわけではないと思う]
そんなことで、わたしの第二詩集『庚申その他の詩』に続いて、この本も書肆季節社の政田氏の手をわずらわすことになった。重厚な造本者で定評のある同氏に紙装本の案を出し、書肆季節社のべーパー・バック〉を示唆したのはわたしである。
昭和五十八年九月 訳者
(「あとがき」より)
目次
- 人生摘要 カール・シャピロ
- 浜辺の歌 ピーター・ヴィーレク
- 歌 フレデリック・プロコッシュ
- 真夜中 フレデリック・プロコッシュ
- 歌 フレデリック・プロコッシュ
- 忙しい日 ジェイムズ・ロクリン
- フランクリン広場 ウイリアム・カーロス・ウイリアムズ
- ハドソンの河口 ロバート・ロウエル
- ウイリアムス・カーロス・ウイリアムズへの手紙 ケネス・レクスロス
- 先輩詩人の全集再読にあたって ウインフィールド・タウンリー・スコット
- ジェイムズ・ジョイス ロバート・グリースン
- 一九四〇年一月 ロイ・フラー
- 「わたしは他者だ」 ロレンス・ダレル
- 困った詩人 ジョン・ヒース・スタブズ
- ネメア ロレンス・ダレル
- イタカの見はら台で ロレンス・ダレル
- 苦いレモン ロレンス・ダレル
- 怠惰の木 ドロレンス・ダレル
- 中年 ロバート・ロウエル
- 一九六一年秋 ロバート・ロウエル
- アルフレッド・コーニング・クラーク ロバート・ロウエル
- べにはないんげん ウインフィールド・タウンリー・スコット
- 貧しい老姿に ウイリアム・カーロス・ウイリアムズ
- ばあさんの目をさまさせるために ウイリアム・カーロス・ウイリアムズ
- わたしのイギリス人のおばあさんの最後のことば ウイリアム・カーロス・ウイリアムズ
- フラウ・バウマン、フラウ・シュミット、フラウ・シュヴァルツエ セオドア・レトケ
- 野戦 フレデリック・プロコッシュ
- 歩哨 アラン・ルイス
- 成熟がすべてだ ピーター・ヴィーレク
- 戦時のアルジェ ピーター・ヴィーレク
- 月と夜と人間たち ジョン・ベリマン
- 復員 ピーター・ヴィーレク
- 精神分析のバラード ロレンス・ダレル
- やさしい強迫観念 ピーター・ヴィーレク
- 病院の聖女のいったこと ピーター・ヴィーレク
- 「宇宙ホテル」という名の病院 ピーター・ヴィーレク
- 一九四二年キリスト再臨 ヘンリー・トリース
- 大かえで ヴァーノン・ウォトキンズ
- 日光浴をする人 ヴァーノン・ウォトキンズ
- ぼくを思い出してくれ キース・ダグラス
- ウエールズの風景 R・S・トマス
- 問い R・S・トマス
- 家族紹介 R・S・トマス
- 住み手のなくなる丘 R・S・トマス
- 幼年時代の思い出 デイラン・トマス
詩人たち
あとがき