少年 神西清

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 1955年3月、大日本雄弁会講談社から刊行された神西清(1903~1957)の長編小説。

 

 これはある呪はれた少年の記録である。その少年の悲哀を、悲哀のことばに頼らずに書きとめようといふ願ひを、わたしはいつの頃からか抱いてゐた。それがやつとをむすんで、昭和十一年に『母たち』を書いたのだが、これはいはば三部作を終りから始めたやうなものであった。
 のこる二つの部を、わたしは久しく書きあぐねてゐた。季節が空しくめぐつて、わたしは非情のことばの鍛錬から、しだいに遠ざかりつつある自分を感じてゐた。それが昭和二十六年になつて、とつぜん『少年』を書くことができた。つづいて昭和二十八年に、『地獄』が生まれた。ともに季節の異樣な抵抗を感じながら書いた作品である。
 かうして、意外に永いあひだの迷ひを経てたどりついた三部作であるが、今それを一本にまとめて上梓するにあたって、空しく失はれた季節へのみならず、現はれた少年時代にたいしても悔恨の情あらたなものがある。
(「おくがき」より) 

 


目次

  • 少年
  • 地獄
  • 母たち

おくがき


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