夢洗ひ 恩田侑布子句集

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 2016年8月、角川文化振興財団から刊行された恩田侑布子(1956~)の第4句集。装幀は南一夫。著者は静岡市生まれ、刊行時の住所は静岡市葵区

 

 『夢洗ひ』は、私の第四句集です。二〇〇八年夏から二〇一六年春まで、発表句一一二五句から二九七句を自選し、本集といたしました。
 ちょうどこの夏、背山の竹やぶに笹百合が咲きました。うすい朱鷺(とき)色の花びらの奥に、青磁色が明るく透きとおっています。種が花を咲かせるまで、蝉のように地中で七年以上を睡る幻のような花です。夏目漱石の「夢十夜」の第一夜に出て来る百合は、これかもしれません。風に揺れる笹百合からわずか三間ほど離れた斜面に、ナメクジに手足といった体の穴熊が棲んでいます。夜ごと巣穴から、魑魅魍魎のような鳴き声と足音で、網戸のそばまでやって来ます。八月からは猪の出番。勝手口のとびら一枚向こうがヌタ場に変わります。楚々とした花と、鋭い歯牙の獣にかこまれた峡中に、早や四半世紀を過ごしました。還暦を迎えるにあたり、一病息災でいられることに感謝し、八年振りの句集出版を思い立ちました。
 酔生夢死ということばに最初に出会ったのは、十の時だったでしょうか。何という不思議なことばだろうと、つよく惹かれました。すでに夢に死ねるほど恰好良くもなく、そうかといって、夢を見ない真人にもほど遠いことがわかっています。いまは、夢の若(ごと)き浮生に夢を洗いつづけたいと願います。
(「あとがき」より) 

 
目次

  • 青柚
  • あまのぶぼこ
  • 九重の天
  • 安ら安ら
  • 海百合
  • 夭夭

あとがき


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