1997年5月、花神社から刊行された大峯あきら(1929年~2018)の第5句集。装幀は熊谷博人。「晨」代表同人。刊行時の著者の住所は奈良県吉野郡、職業は龍谷大学教授。花神俳人選。
この句集は『紺碧の鐘』『鳥道』『月讀』『吉野』につづく私の第五句集になります。平成二年から平成八年にかけての作品の中から選んだ四二七句を収めました。
人間の恣意的な情念によって物の表面を彩色したり、感覚のアングルだけで自然を切りとったりする種類の俳句とは別の道を歩くようになってから、もう大分経ちます。俳句という詩のことばは、個人の心のたんなる叫びの表白ではなく、その叫びがいったん、山川草木や禽獣虫魚たちのことばの世界へ消えてしまって、そこからもう一度再生してきたことばにちがいないと思うからです。何だか世捨人みたいな考え方だと思う人々もいるかもしれませんが、今の私にはどうしようもない実感となっています。
あらゆるものが数字と記号で処理される今日の科学技術とコマーシャリズムの社会は、世界全体が、もはや何ものをも映さず、何ものをも反射しない曇った鏡みたいな一つの水平的な表面というものの中へ滑り落ちてしまった社会のように見えます。世界の深みの方向に向かって垂直的に覚醒し、宇宙の内における人間の位置というものを感じようとする真の詩の復権にとって、今日ほどの悪天候はないかもしれません。
それにもかかわらず、季節の自然の物たちが贈ってくる、ひそやかで情熱的なメッセージに耳を澄ませていますと、この人間存在の大事ないとなみは、今日なお可能だということを改めて説得され、勇気づけられるのです。
(「あとがき」より)
目次
- 平成二年
- 平成三年
- 平成四年
- 平成五年
- 平成六年
- 平成七年
あとがき
初句五十音索引