2004年9月、角川書店から刊行された八田木枯(1925~2012)の第5句集。装幀は伊藤鑛治。著者は津生まれ、実家は材木商。刊行時の住所は練馬区光が丘。
本集は前句集の『天袋』につぐ私の第五句集である。平成九年より平成十六年半ばまでの三四〇句を収め『夜さり』と書名した。句の陳べ方はこのたびは歳時記に倣って新年の句を頭に置いたのは私の生まれが一月一日であることも気分しているように思えてうれしい。書名は集中の、
白地着て雲に紛ふも夜さりかな
の句から抽いた。夜さり、は私の幼児のころに祖父や父が日常に使っていた日本の古く美しい言葉の一つであろうと思う。集中の鶴や母や病雁と同じように私の俳句の本質のところにある言葉で、わけなく親しさを感じている。
本集は私の七十代の作品集で当然の事乍ら老の句もかなり収めてある。老の句を意識して詠まないという人もいるが、七十代の生理は五十代、六十代とちがうのは自明の理であり、ひらき直るという言葉は好きではないが、ここまでくれば極く自然に老を詠めばいいと今は思っている。青春の日に青春を讃えて詠んだように、滋味ふかき老を詠みこなしたいと念じている。
(「あとがき」より)
目次
- おなさか
- 夜さり
- 貝の蓋
あとがき