2020年2月、栗売社分室から刊行された近藤久也(1956~)の第8詩集。装画装幀は長谷川集平。
夜がくだかれ光になって散らばる町に
男が横たわっている
彼はやがて
家々の地平線を越えていのちの水をまたぐ
男の大いなる眠りのなか
幾つもの詩が釣りあげられ
ここに結晶化した
詩を書くとはどういうことか。いまもってわからない。生活のリアリティを言葉で表現することではない。妄想を言葉で表すことでもない。なんらかの理念の下働きをする言葉ではもちろんない。伝達の言葉でもなく、感情の叫びでもなく、視界のスケッチでもない。自らや他を慰安する言葉でもない。物語をこしらえることとはほど遠く、なにかの役に立つこともない。ひとつひとつ丁寧に打ち消して、それでもなお漏れ出て、滲み出てくる言葉を記してみたい。否定を尽くし、微かに在る肯定。それを嗅ぎつけたいという青臭い欲望はしぶとく枯れない。
(「あとがき」より)
目次
- 夜の砂たち
- あっち
- 浦富海岸
- ひとのこと
- 静寂
- 俺
- 出会い
- 櫂と櫓
- 岸
- 通勤
- 忘れられたいきかた
- 死んだふりをする舌
- 水やり
- 暴君
- ジャグと母音
- 鯉の洗い
- 祝いごと
- 家のなかで
- 暗くてみえない
- 勝手に
- サティスファクション
- 暮れに、はみ出る
- その日
あとがき