水の匂い 近藤久也詩集

f:id:bookface:20200811215800j:plain

 2020年2月、栗売社分室から刊行された近藤久也(1956~)の第8詩集。装画装幀は長谷川集平。

 

夜がくだかれ光になって散らばる町に
男が横たわっている
彼はやがて
家々の地平線を越えていのちの水をまたぐ
男の大いなる眠りのなか
幾つもの詩が釣りあげられ
ここに結晶化した

井坂洋子 

 

 詩を書くとはどういうことか。いまもってわからない。生活のリアリティを言葉で表現することではない。妄想を言葉で表すことでもない。なんらかの理念の下働きをする言葉ではもちろんない。伝達の言葉でもなく、感情の叫びでもなく、視界のスケッチでもない。自らや他を慰安する言葉でもない。物語をこしらえることとはほど遠く、なにかの役に立つこともない。ひとつひとつ丁寧に打ち消して、それでもなお漏れ出て、滲み出てくる言葉を記してみたい。否定を尽くし、微かに在る肯定。それを嗅ぎつけたいという青臭い欲望はしぶとく枯れない。
(「あとがき」より) 

 
目次

  • 夜の砂たち
  • あっち
  • 浦富海岸
  • ひとのこと
  • 静寂
  • 出会い
  • 櫂と櫓
  • 通勤
  • 忘れられたいきかた
  • 死んだふりをする舌
  • 水やり
  • 暴君
  • ジャグと母音
  • 鯉の洗い
  • 祝いごと
  • 家のなかで
  • 暗くてみえない
  • 勝手に
  • サティスファクション
  • 暮れに、はみ出る
  • その日

あとがき

 

栗売社(佐々木安美)Twitter