1970年4月、創思社から刊行された島征三(1909~?)の短編小説集。装幀は前川直。
はじめにだした作品集は昭和十二年のことで、これで二冊目になる。本をだすということは、たいへんな仕事だと思う。その間、共同執筆でまとめられた本や中学生向きのものを二、三だしたものの、あまりかんしんしたものでもなく、この本にしたところで、はじめからとくにもっともらしい意義とか意味をもたせようなどとは考えもしなかった。ただ、雑誌や新聞に活字になったものを手もとにおいておくと、いつのまにかどこかえ消えてしまうものがでてくる。これまで、随筆とか評論じみたものを除いて、六〇いくつか発表した作品のうち、一〇いくつかはなくなってしまっている。そのうちで、題名も内容も記憶にすら残っていないものが若干ある。書いて活字になった文章は、出来、不出来はともかくとして、一応は愛着をもっている。それがなくなってしまうのは少しばかり惜しいように思われたので、まとめてみる気になったまでのこと。二冊としても五分の一程度だし、条件さえととのえば、つづいてだしてゆきたい気持はあるのだが、なにぶん、としもとしだし、さきのことはどうなるのかわかったものではない。ここにおさめた作品も、記録的な保存の意味をおもに考慮した関係から、必しも出来のよさそうなものばかりをえらんだわけではなく、なるべく、ちがった雑誌に発表したものをひろって並べてみたまでのことにすぎない。ところで、こうしてまとめあげてみたとき、はじめに本にしたときのような欣びみたいなものが、あまり感じられないのだ。どうしたものか、たぶん、としからきたものじゃないかと思っている。
(「あとがき」より)
目次
- たそがれ
- 冬木立
- 天竜河口
- 流れた渦
- 石灰の道
- 狐の骨
- 野草の露
- 風と波と雲
- 蜉蝣の血
- 残り火
- 幟のかげ
- 吹きだまり
あとがき