1992年9月、思潮社から刊行された岡田隆彦(1939~1997)の第11詩集。装幀は芦澤泰偉。
三年半ほどまえ、死ぬこともありうるような難しい手術だと医者から宣告されて、潰瘍ができた食道を取り除く胸部食道全摘・結腸再建という手術をすることになったとき、なぜか幼少年時代のことがしきりに思い起こされた。手術が成功して、いま元気でいるのは夢のようだ。
術後少しずつ恢復してゆくのにあわせて、幼少年時代への郷愁をもって一篇の詩を書き、それと同じような種類のことがらを成長してからのとして、もう一篇の詩に書き、一組ずつ対を成すような連作を試みた。過去への郷愁のうちに未来が想像されたからである。この十二組の連作が、本詩集の中心を成す「鴫立つ澤の」である。題名は、現在その近くに住んでいて、幼年時代も近くですごした鴫立つ澤、そしてそれを歌った西行の、「こころなき身にもあはれは知られけり鴫立つ澤の秋の夕暮」にあやかった。
(「あとがき」より)
目次
郷愁詩篇Ⅰ
- 茄子の郷愁
- 笑う子供
- 大都会の夜、たわむ
- 面会は三時から
- 三本の樹
- 街のとおい記憶
- 夜が来るまで
- 湾から光が射してきても
- めぐる季節
- 生ける影
- 海へ
- 雪のなかの燠
- 柘榴の宇宙
- 郷愁と想像と
郷愁詩篇Ⅱ
- 叢の狭間
- 時代おくれの感傷
- そのまえにわたしは死ぬ
- 見えない動きが
- 豊かな代用品暮らし
- そのうしろの物が
- ときはかそけく
- 橋わたし
- 四季を織るようにして
- スパイのように
- 窓・鏡・門
- わが感覚はいずこにありや
- 距離
- 初めて出会う
- 旅人の影
眼の歩み
- 街かどで
- 眼の歩み
- 物がうつる日々
- ひまわりの憧れ
- 夢は漂う
- 螺旋のように
- 電話の幻想
- 消化不良のない病気
- 水族館にて
- 肉と葡萄酒
- 影の王国
鴫立つ澤の
- 幼い光景
- 海を見た猫
- 暗い潮
- かなしいフリーウェイ
- 何かを背負(しょ)って
- 快適なデイパック
- 子供の分隊
- 生家跡再訪
- 秋の夕暮(Ⅰ)
- 秋の夕暮(Ⅱ)
- 草茫茫
- caro vale
- 抜け道
- 人生の倍返し
- 熱がきざす(Ⅰ)
- 熱がきざす(Ⅱ)
- 見せるかたち
- 成るかたち
- 黄金の川
- 鴫立つ川
- 伝わるもの
- 閉ざすもの
- 鴫立つ澤の
- 涸れたる澤の
あとがき