2002年9月、二人発行所から刊行された西岡寿美子(1928~)の詩集。装画装幀は北村文和。
テーマを定める、と言えば聞こえはいいのですが、われながらどうも一つ事に執し過ぎる嫌いがあるようです。
前々集「へんろみちで」には、足を痛めながら四国四県の辺地を何年も巡り歩きましたし、前集の「ゆの下に埋めたもの」では、滅びに瀕した山の民の暮らしを、「今ここで記録しておかなくては」、と入れ込んでしまいました。また、これは未刊ですが、素人のささやかな農体験「菜園便り」も、取り掛かってもう数年ですから、かなり堆い稿量となりました。
これらを、意思による「攻め」の産物と呼ぶとすれば、今集は、そうした偏執から外れた「受け」の姿勢での普段うたです。ですが、凡々に見える日常こそ不測。こここそ生の切所で、得るより喪うことの速やかな難場ではありますまいか。何事であれ心用意もなく、経験則も持ち合わせないところへ、不意に出来する世事百般です。受け損ない、処し誤り、事過ぎて後の繰り言、に作が終始しているならば、それもまた器というものです。
したがって、今集は一篇を除き、他のすべてを自前の詩誌「二人」発表の普段作から採りました。また、標題の「むかさり絵馬」は、かつて真壁仁先生がご案内下さった、山形立石寺(山寺)の景からいただきました。一見の旅行者にはまことに異様な習いと見えましたが、この世間一般の条理を突き抜けた人心の顕れには、いたく胸刺されるものがありました。あれから永い年月が過ぎ、先生も亡くなられて久しくなっての後ですが、遅ればせの手向け草ともなれば、と抽いて掲げることにいたしました。
(「あとがき」より)
目次
Ⅰ
Ⅱ
- 高みで
- 形見(しょうぶ)分け
- 遅れた戦死者
- 幽霊話 二つ
- 幽体
- 痛い場所
- 野の物を
Ⅲ
- 北へ傾いて
- 斑猫(はんみょう)
- むかさり絵馬
- お頼(たの)申します
- 人形の館
Ⅳ
- 追う
- 還る
- 迎える
- 問う
- 仕舞う
- 聴く
あとがき