娘と私 獅子文六

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 1966年12月、東方社から刊行された獅子文六(1893~1969)の自伝小説。装幀は御正伸(1914~1981)。元版は1956~1956年主婦の友社版。

 

 私は、それまで、フィクションばかり書いてきた。これは職業に対する私の考えから出てることで、今後も、それを続けていくだろうが、この「娘と私」だけは、まったく例外だった。この作品は、私の身辺に起きたことを、そのまま書いた。つまり、私小説であるが、それは、私の文学に対する考えが、変ったというよりも、むしろ、偶然な動機からだった。
 十数年前に、私の前妻が死んだが、その時に、「主婦の友」その他から、妻を喪った感想を書くことを、求められた。しかし、私の気持は、それどころではなかった。
「一周忌でもきたら、書く気になるかも知れませんが……」
 私はそういって、依頼を断った。
 そして、一周忌がきた頃に、私の気持も、やっと、一段落した。そして、どうせ書くなら、感想という形式よりも、長編として、妻と私の歴史を、顧みて見ようという気になった。そして、それを「主婦の友」に書く気になった。
 それにしても、亡妻のことを書くのに、「娘と私」という題名は、おかしいと思う人もあるだろうが、私にとっては、亡妻は、娘と切り離せない存在なのである。その理由は、この作品を読んで下さる人に、了解されると思う。
 この作品は、昭和二十八年の新年号から、三十一年の五月号まで、「主婦の友」に連載された。私の作品としても、長いものになった。一家の私事に過ぎないことを、辛乏して長々と読んでくれた読者に対し、今でも感謝している。

昭和四十一年秋、赤坂双六亭にて  獅子文六

 

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