1958年10月、平凡出版から刊行された冨島健夫の長篇小説。装幀は奥津国道。
あたらしさだとか問題作だとかいう野心をはなれて、わたしはこの小説を書いた。人としての祈りの塔を築くきもちで書いた。
その意味でも、またそのほかの意味でも、これはわたしの作品のなかでわたしのもっとも好きなものになるだろう。作の出来不出来は二の次である。
もしだれかにわたしがこの小説を捧げるとするならば、その人は作中にでてくる志野雪子さん以外にはない。その人の姿がわたしの前から、したがってあらゆる人たちの前から消えて、すでに十年近い歳月が経った。
(「あとがき」より)