2002年11月、土曜日術出版販売から刊行された山本律子(1968~)の第1詩集。装幀は狭山トオル。著者は埼玉県生まれ、写真家。
なんとなく続けていた。やりたかったというより、やってきたこと。いつのまにかつづいていたこと。私にとって詩を書くということはそういうことだ。詩という意識すらなく、何となく書き留める。そういうものが溜まっていた。
人に見せるという意識は写真のほうが強く、写真展をやっているときに言葉も出してみた。それが思いのほか受けたので調子にのって、こんなことになったというところ。こんなことを言うと大いに力を入れ、切瑳琢磨して作品を創っている方々からはお叱りを受けるかも知れないが、こういう贅沢をやめるつもりはない。有用に対しての無用は楽しい。極端な話、人に限らず存在そのものが役にたたないものだから、使命だの目的だのを必要としているのだ。遊びといいかえてもいいような無駄ほど贅沢なものはない。実学だって何かのためにするときはあまりおもしろくないが、考える作業を目的としてするのは大好きだ。
とはいいつつも、これを創るにあたってすこしは自分を削ったので、休耕地のようにしばらくぼーっとしていたいと思う。
私の言葉をごつごつとしていると評した人がいて、それはとてもあたっていると思う。もっとすっきりとした表現にできるところもあるのだけれど、これもやってみてやめた。私の言葉は滑らかでなくて、ざらざら、ごつごつしているけれどそうでないと自分にしっくりしない。さきの人もそれがかえって好きだという。そういう人の手に渡ったらいい。
私は自分の作品が好きなので、誰かが気に入ってくれたらうれしい。その誰かのほうも幸せだともっといい。気に入った本や映像は私をいつも幸せにしてくれる。そういう意味では誰かの役にたちたいらしい。お友達になりたいというほうが近いか。
作品を見せるというのは、通りすがりの人に花束をあげるようなものかもしれない。切り花は役立たずで、数日で廃棄物になる最高の贅沢品だ。相手がもらってうれしいかさえも分からない。それでも贈るときはちょっとうれしい。私はお花が好きだから。せめて数日、そこで咲いていられますように。
(「さくひんのこと/山本律子」より)
目次
・深夜遊戲
- 深夜遊戲
- 鳥
- 使
- 浅い眠り
- うろこ
- 足
- 闇に溶ける
- 夜
- 月の見る夢
- 忘れられた庭で
- 鎖
- 天空の橋
- 砂漠の花
- 真昼の死
- 歪んだ街
- 白い夜
・日記
- ボボリカ
- 白衣をきた鬼
- まぶし
- 雪の日
- 黒い雪
- 事件
- 春
- 明け方の夢に
- 空
- 帰り道
- 緑のうみ
- 夏の日
- 彼方へ
- 歯車
- めざめ
- カラメル
- きつねのこ
- 首吊り人形
- ままごと
- 晩秋
- お客
- 山小僧
- 仔猫
- 寄り道
- 路で
- 白い手の夜
- 島
・シンキロウ
- シンキロウ
- かみかくし
- わたしのかたち
- 夢の中
- 感情のホルマリン漬
- 水曜日
- 霧の森
- 海の記憶
- 蜃气楼
さくひんのこと