誰? 木川陽子詩集

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 1993年11月、花神社から刊行された木川陽子(1929~)の第2詩集。第44回H氏賞候補作品。

 

 せめて自分のことくらいはわかっていたいと思いました。
 私が目覚めると素早く身を翻して去ってしまう夢の、わずかな痕跡を手がかりに、その全貌をもういちど引き寄せようと試みました。けれども朝の光のなかで、私の手に辛うじて残っているのはたいていの場合、蜥蜴のそれのようにちぎれやすい夢の尻尾だけなのです。ですから私の試みが成功したと思えることはいくらもありません。
 私の何処からかやってきたのだとは認めがたいほど醜いものも、紙の上で書いたり消したりしていると、知らず知らずその醜さをぼかしたり、愛らしく滑稽なものにさえ変っているのでした。が、不思議なことに、そういう夢もいちど紙の上に解き放つともう二度と姿をみせることはなくなるのでした。夢も変貌したがっているのかもしれません。この手仕事ともいえる作業を重ねているうち、いつかすっかり健康になった自分に出会うだろうと思いこむようになりました。そうなったらどうするか、それはそのとき考えるつもりでした。
 しかし月日が過ぎたいま、他の人にむかってだけでなく、自分自身にさえ「誰?」といいそうになっている私がいます。
(「あとがき」より)

 

目次

  • 彌生
  • 野蒜
  • 草のなか
  • 来客
  • 闖入者
  • 捕獲
  • 病記
  • スエおばさんのうた
  • バルコニー
  • 星をかぞえて
  • かくれんぼ
  • セーター
  • 初冬
  • 春の弔い
  • 葉月
  • 夏日
  • パントマイム
  • 同窓会


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