月夜の仕事 小柳玲子詩集

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 1983年8月、花神社から刊行された小柳玲子の第5詩集。装幀は林立人。

 

敗戦の翌年だったろうか、まだ空襲の傷痕が生々しい私たちの町に、巡回児童劇団がやってきた。「月夜の仕事」というポスターが電信柱や交番のガラス戸に貼られた。今ではもうその顔をさだかに思い出すことのできない若い叔母と一緒に「月夜の仕事」を観に行った。
あれは焼け残った区立小学校の理科室だったと思う。劇の筋書も場面もすべて忘れ果ててしまった。「月夜の仕事」という名前だけが、時に私の奥で明滅する。
公演が終ると町は夜だった。月あかりはそこここの斑雪を照していた。キャベツのいくつかは畠の中で腐り始めていた。その頃、月も腐ったキャベツも、今では信じ難いほどに浄らかで美しかった。
私は叔母とその辺りではぐれてしまった。ひとり、月夜にしなければいけない仕事は何であろう、と思いながら歩いた。仕事はとても難しかった。私は未だその仕事を終えることができないでいる。年月ばかりが茫々と過ぎてしまった。破片(かけら)のような仕事を上梓する今日、非力と怠惰を思い、泣き出したいくらいである。
私は大切なものとはぐれてしまったのかもしれない、どこかで私の月夜は腐り始めている|その思いがしきりである。
(「月夜の仕事――あとがき――」より)


目次

  • 風の谷
  • 風の谷
  • 秋の旗
  • 月夜の仕事
  • 月夜の仕事
  • きみのわすれな草を忘れよ
  • 切り紙
  • 晩夏
  • ミリーの公会堂
  • 夏至
  • Kの土地
  • ミリーの館

月夜の仕事――あとがき――

 

書評等

詩はどこにあるか(谷内修三の読書日記)
 


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