2016年8月、書肆犀から刊行された近江正人(1951~)の第7詩集。挿画は佐藤廣。著者は山形県新庄市生まれ、刊行時の住所は新庄市。
今から二十五年程前、「北の鏃」という詩集を発行した折り、私の心に一つの問いが課題として残った。私にとって「北」とはどの地点なのかという漠然とした問いである。もちろん、全国でも豪雪の地として名高い、「雪国」と呼ばれる私の郷里新庄最上を率直に表現したつもりであった。が、どうしても自分の心に判然としないものがあった。あれから時が経ち、今ようやく一つの答えがある。私にとって「北」とは、春を待ち望み、豪雪と闘いながらも心豊かに生きようとする郷里最上の地であり、たとえば未曽有の大災害や原発によって土地と暮らしを奪われながら必死で復興を目指す東北全体を指すものであったと。もっと掘り下げるなら、平和で幸福な暮らしを求めながら、その生活の極北に置かれているこの地球という星の人々、この詩集作成中に大地震に襲われた熊本の断層帯の人々も含めて、理不尽にも災害や戦禍によって土地と暮らしを奪われながらもけんめいに立ち上がろうとしているすべての人々の、心の位置を示す象徴ではなかったかと。
ことほど大げさなものではないが、この詩集「北の種子群」は郷里の先達詩人の詩想を受け継ぎながら、東北に生きる者の感慨を、いわゆる「北」に生きる人の想いに重ねて表現しようとしたものです。厳しい現実と未来であっても、共に「北」に住まう人たちの生活に寄り添い、ささやかでも一粒の言の葉が希望の種子に変わればと願うものです。
(「あとがきにかえて」より)
目次
序詩 種子について
第一章 春のさなぎ
第二章 ふらわーそんぐ
- 素裸の壺
- 六月の魂……夭折した詩人へ
- ノアの時代
- つゆ草のこころ
- 脳というワンセグ
- 風の野~三陸から
- 一パーセントの魂
- ふらわーそんぐ
- 種子について~闇に蹲るものへ
- 砂時計について
- 息ものたち
- インタビュウ
- 空の黒板
第三章 朝の光の中で
- リンゴの樹の下に
- ナマハゲ
- 飛べ ぎんがとんぼ
- 初夏のロック
- 梅雨前線
- 口笛
- 朝の光の中で
- 牛房野
- 北の種子群
- 盆地国モガーミから
- 新学期
終章 星の素足で
あとがき