1947年4月、櫻井書店から刊行された永瀬清子(1906~1995)の第4詩集。装幀は三岸節子。
この詩集を日本の若い人々に捧げたいと思ひます。
これらの詩は前著「諸國の天女」を出したあと、昭和十五年から現在昭和二十一年夏までにかられた作品の中から選びました。
この詩集の書かれた期閒は日本にとつて又とない重大な時機でした。又日本詩史にとつてもそれは年輪の中に癌のやうなものを作りました。今まで俳句や和歌のかげにひそんで見えなかつた詩が第一線に動員され、多くの愛國詩、戰爭詩が獎勵され獻納され又朗讀せられました。若人を戰爭に驅り立てるために、父母の心をその失つたものの値打を忘れさせるために澤山の詩がかゝれました。しかし戰爭がすんでそれらの詩は「不用」になってしまいました。戰爭は大衆を詩と云ふものに親しませましたが、たとへ戰爭が詩に對する愛を若い人々に呼びさましたとしても、その作品が「不用」になつたやうなものばかりでは詩人は最も無責任なものと云はなければならないでせう。
私の詩がせめて詩に飢えた今の日本の若い人々に讀んでいたゞいて心を慰めることが出來るならと思つてこれを編みました。
つかまり所のない空虛なかなしみを抱く人々がこの詩集のうちのほんの一二籍なりと讀み記憶して下さるならうれしいと思います。
(「あとがき」より)
目次
序 北川冬彦
・第一章 大いなる樹木
- 大いなる樹木
- 亞細亞の竪琴
- みどり
- 外はいつしか
- 起てよお前は朽葉でない
- 三月
- 雨戸の外に
- 神神
- 天空歌
- 太陽歌
- 心もともに
- 五月の歌
- 北の海
- わだつみの歌
- わが運命
- 早春
- 瀧に寄せて
- 術懷
・第二章 母の心配
- 母の心配
- 鷹の羽
- ほほえみさん花さん
- 花
- 花の告別
- 夏至の夜
- 春のさきぶれに
- (一)
- (二)
- (三)
- 美しい新年
- そよ風の吹く日に
- ちりぢりにわかれて
- だまして下さい言葉やさしく
あとがき