1994年12月、短歌新聞社から刊行された大山敏夫の第4歌集。冬雷叢書76篇。
これは『感情交響』に続く私の四番目の歌集で、配列はほぼ発表順だが、あまり意味を感じないので、発表年の記載は省略した。
歌集名は、ひそかに愛読した白川静氏の書のなかに「ものはみな時間と空間とにおいてある。その時間においてあるものを存といい、空間においてあるものを在という存在はいずれも聖記号の才を基本とする字である(『漢字百話』)」とあったところから借用した。つまり「存在」といふほどの意味で、表紙カバー中央の朱文字は甲骨文、金文に見られる聖記号「才」を私が写し取ったものだ。なかなか味はひのある文字だと思ふ。
この歌集のなかにもしばしば登場する今は小学六年の娘が、原稿作りを手伝つてくれるといふので一部任せた。この娘は幼い頃から百人一首等を読んでゐて、歴史的仮名遣ひにも馴染んでゐるので信用できるし、また、後のよい思ひ出にもなるであらう。成長の後、自分が手を添へたこの歌集を読みかくし、父が如何に生きたかを考へ、みづからの人生のうへに教訓を引き出してくれたらと思ふのは欲の深い親馬鹿か。
とにかく、何でも歌にしてやらうといふ気持で過ぎた歳月であった。からした態度は、私の今までの歌集にはなかった筈だ。下手でも良い、自分の歌を作ること。これが私ども「冬雷」の基本方針である。私もそのレールの上を走って行きたい。 自分の歌を作るにはありのままの自分の放出以外ない。
(「あとがき」より)
目次
- 骨盤
- 悲しみ
- 聖記号
- 少年の指
- 筆者
- 冬雷
- 四十歲
- 威厳
- 自動車
- 四歳
- 矢
- 顔
- 少女
- 焼酎
- 除草剤
- たましひ
- カラオケボックス
- 蘇生
- 記憶以前
- 鈴の音
- 労働
- 超
- 鴨
- 感官
- ひまはり
- 茂吉記念館
- 蟻
- 色香
- 光
- 本
- 酸素
- 阿伊染徳美画集「絵画のかたりべ」を読む
- 桜
- 手袋
- 不眠
- グッド・バイ
- 六歳
- 零戦
- 傷
- 走る
- 父
- 展翅休息
- 中年
- 沈没
- 歯
- 耳栓
- 猫
- カプセル
- 汗
- 体力
- 勝田行
- テープの声
- メダル
- 十二月一日
- 地球
- 母
- ファミコン将棋
- 年金
- 徒長枝
- 諺
- 柿の種
- 犬
- 犬吠埼
- ペレストロイカ
- ベルリンの壁
- 手紙
- 夏たけなは
- 夜そして朝
- 白髪
- 舌
- 支保工
- 月見草
- フランス
- どくだみ
- 日本国憲法
- 軍歌
- 藤
- 癌焼滅
- ガムと義歯
- みこし
- カナシキ
- 峠
- 迷ひ蟋蟀
- ため息
- 水搔
- 捩摺
- 養昌寺
- 八
- 悪魔
あとがき