1996年7月、ミッドナイト・プレスから刊行された根本明(1947~)の第6詩集。装幀は永畑風人。
開通間もない臨海副都心線に乗って東京テレポートの地下駅から地上に顔をだすと、いくつかの奇をてらった建物が空漠とした広がりの中に点在しており、お台場の方角を見るレインボーブリッジが白くこちらへとくねってくるのが見えた。「虹橋行」を書いた九四年の夏、お台場の渚からすぐ後ろは立ち入り禁止区域となっていて、橋の上から工事の土煙だけが見えたのが、今は新たな景色がお台場の背を溶かして包み込んでいるのだった。徳川幕府が外敵に備えて大慌てで作った小さな人造島に向かって、陸地から異物のようなものが次々と増殖して延びてきて、およそ一五〇年かけてついにこれにべったりと張りついたものは、頓挫した光景だった。背と腹が時間を超えて癒着するような妙なイメージに襲われる。ここでは日本の近代の始まりと座礁がねじれて絡み合い、壊れたぜんまいのように弾け出た私たちの内部が奇妙な形を作っているのだろう。
時間の縫合線のあたりで暮れなずむ渚を見ている時、不意に甲高い笑い声が起こり、私の横を金色に髪をなびかせて子供たちが水辺へと駆け抜け、聞き取れない言葉をかわしながらあっというまに背後に引き返していった。どの時空からの眼差しか。私がモノクロームとしてそこにたたずみ、渚には石を積む男たちの隈取り鮮やかな顔つきが見えたにちがいない。さて、昏れ落ちてしまう前に、私はここからどう言葉を歩かせようか。
(「金色の子供たちが――後書きにかえて」より)
目次
・シティ・ブルーズ
- チャイルド
- キャバレー
- 日輪が窓を燃え落ち
- 地下駅
- 渚にて
- スタジアム
- バード
- ズーパーク
- シティ・ブルーズ
- スキャン、ダル
- 淵に
・剥
- 剥
- 虹橋行
- この黄昏のあやかしに
- 海馬に遭う
- 愛欲非一
- 戯、ぞ。
- おお、
金色の子供たちが