1975年12月、国文社から刊行された宮城賢(1929~2008)の叙事詩集。装幀は宮園洋。著者は熊本県八代郡氷川町生まれ。
遠景のみに恵まれた〈空中楼閣〉の三年間が生んだこの五部作を、至近の近景のみしかない地上の月並みな新居で校正している。九割がた憎みながら住んだあの高楼が、その憎悪のゆえに、私にこれらを書かせたのかと思うと、一割ぐらいの愛情をいまとなっては誘われもする。
ジャンルからいえばまことに放恣なこれらの作品のうち四篇を、雑誌『試行』(40~45号)に発表できたことを、私は誇りに思う。そして、有形無形のうちに手応えも確かにあった。ここに『試行』とその読者に深謝せずにおれない。
最後の一篇も同誌に発表すべき筋合いのものであることをわきまえながらも、より多くの読者に読まれる可能性を発掘すべく上梓を勧めた田村雅之氏の熱意を前にして、私はこの一篇を書きおろしとして加えることにしたのである。私の心づもりでは、これは〈現代叙事詩集五部作〉といったものだが、ジャンルの類別についてはかくべつこだわるわけでもない。
作者の私もまた、この本がもっと多くの人々の眼にふれることを希う。そのように希うに価するものだという自負が、恥じの念を押しのけるのを覚える。重ねて、『試行』と、その読者と、国文社御一同に、感謝をくりかえす。
(「あとがき」より)
目次
- 運動会抄景
- 東京鬱景
- 富嶽四景
- 空中楼閣の幻影
- 新・当世胸算用
あとがき