1979年9月、国文社から刊行された藤富保男(1928~2017)の詩集。表紙はピエール・クルセール。
これらの各詩は斜めに読むとか、どこかから反対に読むと、詩行が一行、あるいは二行分、意識的に隠蔽されている。
こういうふうに一見、遊戯的にしたのは、自分のなかに言語を限定し、その配置の具合によって語を始動させたり、操作したりしてみるというルールを作って詩を書きたかったからである。
かくされた詩行は文字鎖のように頭字を横に読むのもあるが、全く同じ方法をとったのは二篇だけである。当然、詩行の一部から詩の題につながっている場合と、その逆の場合もあることを付け加えておく。これらが雑誌に発表されたとき、いくつかの詩誌には、各詩の後か前に、注の形でその詩の成立ちと、伏字のカギときを記した。しかし詩集という形になったので、これらの注に当る説明は除去することにした。
詩は輝かしい冗談と、底なしの淋しさで充満していれば完全である。そういったときの自分をこんな定型で束縛しながら作る実験をしてみたかった次第である。
これらの十四篇の詩は、一九七七年から一九七九年上期までに書かれ、副題として、一連の軽業詩と記されて発表された作品だけを集めた。
(「事情」より)
目次
- 昼の枕
- 猿の学としての常識
- その通り
- 猫九匹
- 存在の型紙
- 朔
- 都
- 架空恋慕
- 長電話
- 袋叩き
- 風二筋
- 花息を窺う
- 景定
- 黒い墓
事情(あとがきにかえて)