1940年3月、第一書房から刊行された春山行夫(1902~1994)の評論集。
ギリシヤの詩人達は一日の最初の時刻に起きた。用を足して祈りを捧げた。それから馬車に乗つて静かな場所を彷徨い、家にかへつて少し休憩した。食事をとるまえに油を塗つて身體を綺麗にした。そして悲劇の本を開いたが、それらはすべてエスキラス、ソフォクレス、ユウリピデエスのごとき一流の詩人のものばかりであった。
彼等は自分達がこんないい時代に生れて、進んだ文學を勉強することができるのを感謝した。((自分が少し早くアテネに生れてゐたら、エスキラス、ソフォクレス、ユウリピデエスが、お互いに競争した有様を見ることができなかつたであらう。年とつたエスキラスに若いソフォクレスが挑み、ソフォクレスが年とると若いユウリピデエスが挑んだ))と・デイオ・クリソストムは書いている。
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私は豚が舗道を走つてゐる支那の泥の町から歸つてきてこのはしがきを書いた。東洋と欧州には戦争が行はれている。私の机上にはこの時代が生んだ思想と精神の争ひの書が山積みしている。
また私が詩を書き始めてからもう二十年になる。口語詩や自由詩や象徴詩や未来派や立體派やイマジズムやシュルレアリズムが、あるひは一日の如く、あるひは一年の如く、私の精神のうへを流れた。否、私がその時間を旅したのだ。
空間的にも、時間的にも、詩人にとつてはユリシイズのやうな美しい旅は残されてゐなかつた。
しかも私はアリストフアネスの『蛙』に出てくるディオニサスのやうに、詩を求めて旅にでた。それが言つてみればこの書である。(「はしがき」より)
目次
定義
- 1技術と態度
- 2定義をつくる天禀
- 3定義への反對
- 4用語の「意味」(M・ロバアツ)
- 5特別な語彙(T・E・ヒユーム)
- 6第一義的に重要な役割(P・ヴアレリイ)
- 7藝術の背後にある個性(S・ジエームズ)
- 8詩の定義(H・リイド)
詩學
- 9詩學と詩論
- 10詩學の變遷
- 11近代批評
- 12アリストテレス的批評
- 13書き方に關する實驗的な覺書(エリオツト)
- 14ヴァレリイの『詩學』
インスピレーシヨン
- 15超自然の影響
- 16「つくるもの」と「できるもの」
- 17プラトン『イオン篇』
- 18イギリス詩に於けるインスピレーシヨン說
- 19理智的、哲學的傾向
- 20フランス的合理主義
- 21インスピレーシヨンの訪問
- 22詩的經驗(T・S・エリオツト)
- 23ヴァレリイの意見
- 24諸家の意見
- 25ロランド・ド・ルネヴィユの『詩の經驗』
- 26アランの『美術二十講』
- 27古代人と近代人
- 28二つの流れ
- 29近代主義の立場
アンソロジイ
- 30ギリシヤのアントロギイ
- 31『アンソロジイに反對するパンフレツト』(ライデイング&グレエヴス)
- 32アンソロジイの編纂
- 33二三のアンソロジイ
純粹詩
- 34純粹詩と「純粹」詩
- 35純粹詩の論爭
- 36純粹詩論の源流
- 37ブレモンの純粹詩論
- 38ヴァレリイの立場
- 39ティボオデの批判
- 40ラルウの「フランスに於ける純粹詩の觀念」
- 41リイドの「純粹詩」
- 42ギャロツド敎授の「純粹詩」
- 43ムアの『純粹詩選』序言
- 44ムアの『純粹詩選』序言への批評(H・リイド)
- 45イーストマンの純粹詩觀
- 46Purism,Purist(G・グリグスン)
II
- 47ポオランの「純粹詩の凝結」
- 48シャボオの『純粹詩と純粹繪畫』
- 49ルフェーヴルのヴァレリイ論
- 50スデエとブレモンの論爭
- 51ラルウの「ポオル・ヴァレリイ、詩と主知」
- 52ウエドレの「ヴァレリイと純粹詩」
- 53フランス・ロシヤ硏究會に於ける討論
- 54E・ウイルスンのヴァレリイ論
- 55S・ボザンケットの『ポオル・ヴァレリイ』