2001年5月、思潮社から刊行された倉橋健一(1934~)の第6詩集。
少年時代、わたしはけっして出来のよい生徒ではなかったが、幾何の授業ではじめのころ教わった点と線の定義にだけは、宇宙や地球のシステムがこんなにもシンプルなところから説明されることにたいする、ある種の不安をこめた期待感を抱いた。といって特別なことではない。点は位置だけがあって面積がないこと、線は二点を結ぶ長さだけしかないという、どちらも存在しない、つまり触わることも見ることもできない知覚操作のなかにしか実現しないという思いが、わたしの関心を高めたのである。
この点と線、コトバをかえれば、原初的な発語と矢印状のイメージをもつ軌跡ということになりはしないか。そうするとそこではつぎのようなイメージを喚起することも可能になってくる。
銃口から発射された弾丸がもの凄いスピードで標的にいたるまでの空の時間。 獲物を追って疾駆する獣の吐く息の切断面。マストの天辺から墜落死する水夫の経験する異刻。
もっともこんなことはたくさんのすぐれた詩人たちがかおるかおる自分のトバですでにいってきたことで、ここではわたしなりのコトバにいいかえた」すぎない。
ただこの詩集はそこを衝迫力(インパクト)とすることで成立した。作品行為としては」一九七年の限定版の詩集『藻の未来』のパートHから引き継ぐことになる。
(「あとがき」より)
目次
異刻抄
- 水辺抄
- 冷えた月
- 妹の匂い
- 邑から
- 異刻抄
- 犯罪現場
- 金閣炎上異聞
- 音の仔細
- 細語(ささやき)
- 睡眠
聖家族
- 魚になって
- 聖家族
- 目覚めてみれば
- 呪縛
- 薄明かりの日々
- 夜半
溶解意志
- 昔噺
- 唖の銃
- はじまり はじまり
- 噂のガラス
- 騒ぐことはない
- 出口なし
あとがき