1958年2月、書肆ユリイカから刊行された高良留美子の第1詩集。表紙・カットは高良真木。
わたしはこれらの詩の大半を一九五六年と五七年に書いた。五六年の夏から五七年の二月までフランスに旅行した間に書いたものが多い。「抱かれている赤ん坊」「公園で」「風」「パリ祭」「昨日海から……」「冬」などがそれで、またそれ以前のテーマをまとめた「生徒と鳥」1、2、「海辺」なども同じ時期のものである。「塔」は一九五三年に、「距離」は五五年頃書き、「走る子供」から「雨の日」までに並べた六篇と「アパート時代」は五七年の二月以後に書いた。
これらの詩についていま感じることは、過去は過去として、現在は現在として別々にしか書けなかったことである。だからどの詩の中でも言葉が云いたい内容を充分に指さず、云いたいことの一部しかあらわれていない様な気するのだ。しかしこれらの詩は、表現するための詩の形式と技術とをある程度自分のものとして感じることができたという点では、わたしにとって記憶に残る作品である。
詩が脱出者の持つ抒情性の表現であると同時に、矛盾を待ちぶせし、とらえる精巧な民でもあり得るということがわたしにもわかりかけてきたようだ。
(「あとがき」より)
目次
- 昨日海から
- 海辺
- パリ祭
- 冬
- 走る子供
- 大洪水
- 月
- 燃える人
- 街路樹の月
- 雨の日
- 公園で
- 生徒と鳥1
- 風
- 生徒と鳥2
- アパート時代
- 抱かれている赤ん坊
- 距離
あとがき