1943年6月、朝日新聞社から刊行された室生犀星の評論集。著者自装。
結局庭といふものも甚だ精神的なものであつて行けども路は盡きることがない。初め竹などを植ゑてゐたものが松を植ゑるやうになりり、そして十年も経つともう地面ばかり凝乎と見てくらすことが多くなる。石も松も、そして庭さへいらぬやうになる。
私の學んだものは遂に庭であるよりも、結局形を變へた側から這入つて人間をつくり上げるために役立つたやうなものである。人間になるために精神的な展がりが自然の風物に、絶え間なく戰いを挑んだやうなものであつた。自然への格闘が静かにおさまつたころに庭が出來上るとみるより外はない。そして私はやつと地面ばかりをじつと見るやうな年に行きついたのである。
(「序」より)
目次
序
日本の庭
- 一、 日本の庭
- 二、 百尺百景
- 三、 保存
- 四、 庭の奧
- 五、 縫ひ目
築庭雜稿
- 一、 つくばひ
- 二、 石について
- 三、 竹の庭
- 四、 夏の庭
- 五、 垣根
- 六、 冬の庭
- 七、 早春の庭
庭と木
- 一、 紅葉
- 二、 美玉の王
- 三、 寒菊
- 四、 水仙花
- 五、 つるもどき
- 六、 至聖林
- 七、 寒竹
- 八、 冬すみれ
- 九、 再び竹に就いて
- 十、 野茨の實
石
- 一、 石の愛人
- 二、 石の饗宴
- 三、 龍のうろこ
- 四、 寶篋印塔
- 五、 奉天の石獸
- 六、 鯛車
- 七、 石に就いて
鳥
- 一、 懸巣
- 二、 人眞似鳥
- 三、 街の庭
- 四、 鳶の輪
- 五、 小鳥の母
- 六、 小鳥達
庭の小品
- 一、 四君子
- 二、 大陸の春
- 三、 春とともに
- 四、 原稿料
- 五、 白い山吹
- 六、 燈籠
- 七、 飛石
- 八、 桃散る錢湯
- 九、 植木人
- 十、 わかれ
- 十一、 馬込林泉
- 十二、 神代
京洛寺院
- 前書
- 一、 薪一休寺
- 二、 龍安寺
- 三、 妙心寺
- 四、 靈雲院
- 五、 東海庵
- 六、 隣花庵
- 七、 去風洞
- 八、 大徳寺方丈
- 九、 大仙院
- 十、 聚光院
- 十一、 高桐院
- 十二、 無隣庵
- 十三、 西芳寺
- 十四、 飛雲閣
- 十五、 旅愁
- 十六、 丸山公園