2005年10月、思潮社から刊行された宇佐美孝二(1954~)の第4詩集。装幀は小山隆司。
前詩集から約八年ぶりのこの詩集は、横井新八さんの個人詩誌「青樹」にほとんどの作品を寄稿したものである。最初に作品を載せていただいたのは一九九三年で、この「虫類戯画」の原型は、シリーズとして一九九五年三月から始まっている。横井新八さんから毎回お声がかからなければ、この『虫類戯画』は生まれなかったことをまず明記して、感謝の意としたい。
この詩集は虫の生態を記すことを主眼としたものではもちろんない。日常が軋みをあげていた頃、おもわず蟲の世界に息つぐ場所を見出した、というのが思い起こせば書き出しの動機であった。
ことば以前の蟲の世界に入り込むことは、詩を書く行為とは相矛盾するかもしれない。「わたし」というものの不思議さも、森を歩き蟲たちと出会うことによって感得したものである。ことばへの不信を言いながら、ことばでしか世界を認識できないことの哀しさ。森を歩き回っていると、木々のあいだから青い空と夏雲がまぶしく覗ける瞬間がある。これが、いま現在のわたしにとっての詩なのかもしれない。
(「あとがき」より)
目次
Ⅰ
- 1 蜻蛉男
- 2 蛾執の女
- 3 展翔板に横たわる
- 4 薄羽蜉蝣のいる高台の家で
- 5 カーニバル
- 6 死角
- 7 糸を張る
Ⅱ
- 8 あかり道標
- 9 無言
- 10 姪のしあわせ
- 11 初夏
- 12 蜂の奪胎
- 13 かたちと理由
- 14 アメンボの杞憂
- 15 虫 三篇
Ⅲ
- 16 ミスター・クラインマン
- 17 穴
- 18 泥にねむる
- 19 棲む――七月
- 20 どこかの野
- 21 蟲の領域
Ⅳ
- 22 毒虫
- 23 アアア
- 24 二月の失敗
- 15 森
あとがき