1995年9月、中日詩人会から刊行されたアンソロジー。装画は堀昌義。編集委員は黛元男、加藤栄子、小園好、松田利幸、若原清。
本書発刊の原流となったのは、中日詩人会々報に掲載された「処女詩集の頃」である。一九六九年発行の会報二八号から、当時の会報担当近藤芳朗氏の発案によって、会員のエッセイ「処女詩集の頃」の連載がはじまった。この企画は、以後会報九一号まで継続され、その間に執筆者は一〇四名に及んでいた。
一九八六年に本会は愛知県芸術文化選奨文化賞を受賞し、その奨励金を活用して当初「中日詩人会史」の刊行をめざしていたが、一九九四年10月の運営委員会において協議の結果、会員の「処女詩集の頃」を一冊に集成して刊行することを決定し、編集刊行の業務は編集委員会を設けてこれに当たることになった。
原稿募集は、一九九四年度の現在会員及びすでに「処女詩集の頃」を会報に執筆された物故会員、旧会員に対して行なわれた。その結果、出稿の賛同を得た現会員、旧会員とご遺族の承諾を得た物故会員あわせて一三一名の参加をいただいた。ただ、会員歴の長い物故会員の中にも、生前に執筆される機会がなかった方があり、本書に参加してもらえなかったことは誠に心残りである。
ところで、一三一篇の「処女詩集の頃」の文章は、多くの文学的意義をもつものである。
そのひとつは、各個人の詩的記録としての意義である。第一詩集の上梓は、その詩人の未来を方向づける記念すべき行為であるが、出版の経緯、背景、とりまく詩友たちの群像、詩集の性格、評価などについて、各文章はかずかずの事実を物語っている。
他のひとつは、中部地方の詩史的記録としての意義である。文章の中に登場する詩グループ、詩人の総数はおびただしい数にのぼり、詩人たちはそこに縦横のつながりと交流を形成しており、各年代における活発な詩活動の様子を投影している。一三一名が寄せた「処女詩集の頃」は総体として、中部地方における戦中、戦後の詩活動の歴史を図らずも描き出したと言える。
(「あとがき」より)
目次
- 赤座憲久 愛の嗣業
- 浅井薫 奇妙なもつと明快な根元
- 浅野夕ダヨ 面はゆい一冊
- 浅野牧子 『カッセーナ族の家』の思い出
- 石川正夫 心の流域
- 石割忠夫 第一詩集を振り返って
- 板倉鞆音 あの頃・この頃
- 市川純子 「山の絵」の頃
- 市川つた 処女詩集を手にすると
- 伊藤勝行 消せない痕跡
- 伊藤成雄 一つの旅情として
- 稲葉忠行 ”応召記”の周辺
- 井上馨治 「奴隷海岸」の頃
- 岩井礼子 「山鳥のスープ」出版顛末記
- 岩瀬正雄 詩集『悲劇』の刊行前後
- 臼井太衛 みかん、お茶、たけのこ、檜
- 臼田登尾留 二度ボコの記録
- 埋田昇二 第一詩集『魚のいない海』発刊前後
- 梅田卓夫 詩集『物たちの位置』の頃
- 江原律 「琥珀の虫」のころ
- 大嶋洋子 泣かなかった頃
- 大竹尹 『ふるさと』とシュラーフザック
- 大西君代 「歯朶」のことなど
- 大西美千代 「水の物語」の終わり
- 大橋住江 「おおわれた夏の日に」のこと
- 大宮幸子 月日の流れの中で
- 大矢博人 「父と子のあいだ」の頃
- 小川アンナ 第一詩集『にょしんらいはい』の頃
- 岡弘子 もう一冊の本
- 岡崎純 詩集「重箱」について
- 岡田篤也 「甦えった機関車」のこと
- 鏡たね 前夜の宴
- 柏木よしお 『水脈の涯』のこと
- 加藤栄子 脱皮です
- 加藤千香子 処女詩集の頃 ひとりごと
- 角谷義子 「寂寥の条件」のころ
- 河合すみ子「原像の会」のことなど
- 河合俊郎 「即物詩集」のころ
- 河田忠 処女詩集『歴史』の誕生
- 木下いつ子 『あしうらの風』の頃
- 久徳善子 『愛の道』について
- 吉良任市 『休暇』の前後
- 木山夕紀 処女詩集の頃
- 金田国武 童詩集『画のかわり』のころ
- 国司通 果てしない〈惑い〉の中で
- 黒部節子 「白い土地」のこと
- 小池鈴江 重いメガネ
- 小出憲江 さとうきび畑
- 小島禄琅 処女詩集発行前後のわが周辺の人々
- 小園好 遅かった処女詩集
- 小松忠 かんなの花
- 近藤芳朗 『降雨警戒』まで――昭和三十年前後のこと
- 近藤友一 初心にかえって
- 近藤隆二 三文詩人のたわごと
- 坂井三郎 処女詩集出版の頃
- 佐合五十鈴 詩集『懸崖』の前後
- 佐々木春蔵 処女詩集の頃
- 佐藤千志子 詩集「畳字」のこと
- 沢田敏子 『女人説話』とわたし
- 椎野満代 詩集への憧憬
- 篠田康彦 『炎と泥』のこと
- 島田紫郎 『赤い腕章』のころ
- 清水孝悦 第一詩集 故郷の廃墟の頃
- 新郷久 詩人は処女詩集に向って成熟する
- 杉山幸子 詩集「少年」出版の頃
- 洲崎汀美 青いことばたちを集めて
- 鈴木孝 処女詩集「まつわり」・二十才の頃
- 鈴木たける 惰眠の器で汲む酒は
- 鈴木哲雄 丸山薫さんのこと 「白い風化」のこと
- 鈴木正己 「鈴木正己詩集日常」について
- 鈴木好 詩集「コトバのないLOVE」のこと
- 瀨戸應夫 『三河湾考』のころ
- 高梨由利江 『伝説の海』に泳いでいた頃
- 高橋玄一郎 詩集『春秋』のこと
- 田中規久雄 処女詩集の頃
- 田中敬教 半島文化の領導を目論んでいた頃
- 谷澤辿 「E夫人」の頃
- 津坂治男 『追う』をめぐって
- 外村竜児 私にとって詩集の価値観とは
- 冨長覚梁 処女詩集のころ
- 富安みのり 第一詩集「哀しみの狩猟者」発刊の頃
- 虎澤勇治 燃えていた
- 内藤文夫 舞い上がった日々に
- 中島紀三武 処女詩集「記号のデッサン」悔恨の賦
- なかむらみちこ はじめての詩・はじめてのことば
- 永谷悠紀子 あの頃
- 那須田浩 さむいうどんのように――詩集『道行』のころ
- 成田敦 詩集「紙の椅子」をめぐって
- 錦米次郎 処女詩集・日録の頃
- 西村宏一 風と光への詩集
- 野田和子 「あらくさ」の目覚め
- 橋場きよ 鎮魂の花束
- 橋本日出子 『ヘビ』がいとおしくて
- 平石三千夫 「孤独の赤い手帖の上で」のこと
- 平光善久 『案山子の歌』について
- 藤井鈞 「アメリカに白髪が生えた」と思ったのだが
- 藤村幸親 「樹のデッサン」青春の碑
- 藤吉秀彦 「流浪歌」を書いたころ
- 保浦正幸 『階段のない風景』の頃
- 堀昌義 処女詩集より処女詩作
- 牧野芳子 「航跡」上梓の頃
- 松井滋 幼虫の頃
- 松下のりを 青春の日々
- 松田利幸 若いボヘミアンの時代
- 黛元男 詩集「ぼくらの地方」の前後
- 宮沢肇 詩集『雄鶏』出版の頃
- 宮田澄子 『沼へ』のころ
- 向井清子 「土偶」出版のころ
- 棟尾久子 時は去り人もまた 未刊の「ジュニイの年表風覚え書き」について
- 紫圭子 私は盲腸で入院中であった
- 村瀬和子 『けしのリフレイン』の頃
- 村田修 あの頃
- 籾山裕胤 黛元男老参る
- 山形幹雄 「清潔な時間」の顔
- 山下久樹 処女詩集の周辺
- 山田賢二 処女詩集の頃 耳よりでない話
- 山田達雄 詩集『時間には翼がある』
- 山田茂里夫 金欠・スランプの最中
- 山中以都子 「訣れまで」のこと
- 山本晋二 第一詩集とその周辺
- 横井新八 詩集『哨兵』の頃
- 吉永素乃 『不意の鹿』誕生ノート
- 頼圭二郎 平和への希求を詩集に託して
- 笠俊介 はっきりしない
- 若原清一 洪水のころ
- 若山紀子 あの頃のこと
- 渡辺一司 処女詩集の頃
- 渡辺カ 〈龍〉のころ
- 渡辺勉 処女詩集の頃
- 渡辺正也 処女詩集の頃の極めて個人的なこと
- 和田攻 詩集『弾薬列車』の頃
あとがき 「処女詩集の頃」編集委員会