1985年12月、鳥影社から刊行された木村迪夫(1935~)の第7詩集。装幀は辰巳四郎、素描画は草刈一夫、イラストは小川プロダクション。
こがね色という表現が、けっして誇大な比喩ではない稲穂のうねりが、濤のあとの鎮まりとなって眼に展ける。四囲の山は、紅葉への跫音がかすかな韻律となって響きわたる。眺望の果ての蔵王のなだらかな稜線だけが、暗黒色の姿態を晒して横たわる。
降りつづく雨の間の瞬時の陽の輝きに、遠来の人びとは、いちように美しい風景だと感嘆する。生の感覚が甦るとも云う。稲は、根のところで倒れかかる棹の長さに堪え、稔るほどにつのる自重の苛酷さに呻吟しつづけているのだが、その光景は来訪者の眼には見えようはずもない。かくされた泥の海が、人とむらを包囲する。
ひところ革命とか、変革という言葉を愛した。幻視のむらを夢みることで、朝のために眠ることができた。それが今は、なぜか変らない部分、変ってはならない部分の重さが、身に沁みる。膝までぬかる泥に漬っていると、根の視点から、むらの息遣いがかすかに、ときには荒々しく、光りの影となって疾っていくのを見ること
(「あとがき」より)
目次
Ⅰ
- 冬の終りに(1)
- 冬の終りに(2)
- 雪の街
- 村へ帰る
- 雨に濡れた桜桃忌
- 風景論
- 帰郷
Ⅱ
- 少年の日
- 冬の影
- 冬が来る
- 夢に奔る
- 逢う
- 婦還る(1)
- 婦還る(2)
- 河岸断想
- 石狩の貝
Ⅲ
- 遠ざかる日
- 沖縄記
- 日を灼く
- 地命の歴
- 水雪
- その眼で
- 詩人の死
あとがき
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