句集東風 第二輯 大島青松園邱山会編

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 1953年7月、大島青松園協和会文化部から刊行されたハンセン病句集。

 

 私等の詩碑として、五百二十二句を再び世に送る事の出來ますことは此の上もない欣びであります。
 本句集は昭和十一年に発行されました、「邸山句集」に次ぐ第二句集でありまして、量質共に貧しいものでありますが、日々むしばまれゆく病の進行速度と、視野の狭さ、刺戟なき風景の二重苦三重苦の生活からにじみ出た私等の切実な叫びとして、兎に角精一杯のものであります。
 十年一ト昔とか言われますが、健者ならざる病者にとつての十八年は大変な長い期間であり、したがつて当時(第一句集)の発刊に当りました会員は僅か、黛水長風の二名にとどまる寥々たる有様です。
 今回集錄した作品は各俳誌を通して各々主宰者の選を経たものゝ中より自選と致しました現会員十九名によるものでありまして、この十八年間に中絕致しました諸氏の作品につきましては惜しくも紙巾の都合によりまして記載出來得なかつた事は誠に残念に存じます。
 七月十八日は、私等にとつて終生忘るゝことの出來ない恩師、故「林東風」先生の六週年忌に当り、師の仰遺德と御恩情を偲ぶと共に、追悼記念号として発刊致します意味に於て師のペンネームになぞらい「東風(こち)」と致します、私等はこの句集を亡き師の霊に捧げまして冥福を只管祈るものであります。
 この句集が一本となつて世に送られますまでには、直接間接に多くの方々の御憲力によるものと深く銘記し、特に園長先生の序文を戴きました事に対し厚く感謝致しますと共に、文化賞に窮しあへぎつ発刊の私等の実情をよく御理解下さいました印刷者、近藤貞三氏の御同情により斯くした良紙、裝慎の出來得ました事に敵意を表し、併せて園当局、入園者協和会の物心両面の御援助に対しまして只々歓喜と感謝に堪えぬ次第であります。
 尚俳句は私等の実生活の上に潤浸なる役割を果すものとして、たとえ俳句が第二芸術でありましようとも、私等の作品が文学的価値の無き寥々たる溜息にすぎないものでありましようとも、私等は生きる喜びを甲斐あらしめる為に、人間として最も真面目なる更生の道と信じ求めて來ました。私等は純眞なる句の天地を得、句の生活によつて、社会的、思想的、肉体的苦脳も、人間的不幸も慰められ、生活力は強化され、自から無限の健康と化してくるのであり、人間としての生活を獲得するのだと思います。たとえ身は病み朽ちようと心だけは健かに新鮮な、淡刺とした更生の道として改めて明瞭に認識するものであります。
 本作品に於て私等の実生活の特色が少しでもにじみ出てをりますならば私等は此の上もない幸福であると、かすかなる希みを抱き乍ら、この句集氾濫の世にあえてお送りする次第であります。
(「編集後記」より)

 

 
目次


序 野島泰治
・作品

  • 辻長風
  • 藤田薰水
  • 上野青翠
  • 飯塚飛兔子
  • 山田静考
  • 岡崎光年
  • 桂自然坊
  • 津田住惠
  • 青木湖舟
  • 里見一風
  • 蓮井拡水
  • 野村千秋
  • 吉田美技子
  • 青山孝
  • 高木暁生
  • 浜田秋津
  • 武田眞碧
  • 天龍清
  • 前田野菊

編集後記

  

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