1950年4月、名鐵詩話會から刊行された島田紫郎の第1詩集。
この本の名『赤い腕章』は現在私が赤い腕章を巻いている自動車々掌であり、又これらの作品の殆んどすべてが、この仕事になつてからのものなので、それを記念する意味からとつたものである。山奥のバスの車掌などつまらないと考える人があるかも知れないが、國鐵の職務の中で、これ程明るく楽しい仕事は他にないのではないかと私は思っている。
私が約四年半のスマトラでの軍隊生活を送らされて歸つて來た一九四七年の十二月、もうこの奥美濃はすつかり雪の下に埋つていた。一ヶ月程、この雪をながめて活らしてみたが、やはり都會が戀しかつた私は、出征前の名古屋驛へかえつてはみたもの~、經濟的な方面と家庭の事情から都會生活を斷念して、この山の奥の職場へ落ちつくことになつだ。春から秋まで高原を山麓を馳けまわる仕事は、私を美しい自然の中あへとけ込ましてくれた。冬、すつぽり雪につゝまれた山の家の團欒の楽しさは、ともすると殺伐になりやすい社會の動きの中で私を守つてくれた。春の若葉、秋の山肌に光る白樺の幹、雪をかむつた遠い高嶺など、季節の移りかわりに眼にふれる風物は私を喜ばせ、いまの私は樹木のように敏感に、その季節の移りかわりをとらえることが出來る。
私も、世の人なみに妻を迎えなければならぬ齢である。獨身では自由に發言もし、又批判することが許されないという時代ではないが、それでも真に人生のきびしさや、社會への正しい視方というものは、暖かい両親の懐を離れなければ、確かりと自分の身につかないのではないかと思われてならない。私の一生の伴侶として、この変遷の激しい社會をたとへ貧しくとも、正しく明るく生きていく人を迎えたいと思う。新らしい生活に入つてから、私の詩はよかれ悪しかれ、變つていくことは間違いない。それが不安でもあり、又希望でもある。
(「あとがき」より)
目次
- 赤い腕章(1)
- 〃(2)
- 季節
- 秋になると
- 初秋
- 山の町にて
- せきれい
- 道路脱出
- バスを押す
- 自動車庫
- 連絡
- 僕の魔術
- 雪ばれ
- 窓
- ある旅愁
- 暮色
- 雪まち
- ひととき
- 日照雨
- 構内
- 新聞
- 驛長
- 雪のつもつた夜
- 白い河原
- ゆうとぴや
- 結婚
- 幸福
- 初戀
- 鮎の座
- 青春
- 秋
- あをいの花
- 家
- 月あかり
- 冬
- 冬のボタン
- 町
- 山脈
- 歸郷記
- 故郷にて
- 山住み
- 海への方向
- 眼帯月夜
- 影
- 山の日記
- 少年
- とある風景
- 茶の花
あとがき
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