孤島記 粒来哲蔵詩集

 1971年9月、八坂書房から刊行された粒来哲蔵(1928~2017)の第4詩集。第22回H氏賞受賞作品。

 

 『虚像』から『舌のある風景』へ、そして『刑』へと、ほぼ三年程の間隔をおいて出されていた私の詩集も、『孤島記』は遅れに遅れて六年の距りをみて了った。その間、何よりも旅をしていた――というより意識的に島をめぐり歩くことが続いた。当然のことだが島は海に囲まれている。私は島にいて、好んで陸封された爬虫類の形をとり、同様の人々をみ、島の植物と魚を食べた。だから風景はついぞ私の前にあらわれず、それは島と私のかかわりあいを遠くからとりまいていただけだった。
 私の島の想念を拡げてみると、島でないところは何処にもなく、自らに科した流竄の島では、死と性にかかずらう劇は絶えずかいまみることができた。従って幻想の劇の主役はつねに「私」であり、私をとりまくものたちも陸封された私だった。私は私に遭うために旅をしていたらしい。
 また一方、劇が二つに、あるいは三つに分断され、それぞれが際立っては独立できず、互いに凭れかかり後ろ向きになりながら手を握るといったふうの作品が生まれた。「章」とは名付けたものの、章が何れも呂律がまわらず、作品の像がのこるべきところに、雰囲気だけがのこった。
 頭上の蜂を追いはらう人をとある距離から眺めると、それはまるで何かに戯れているように見える。距離をへだてれば人は風景の後ろにおちこんで了うし、近づけば人の迷惑は迷惑として固定されて動かない。私の任意の距離は、二つの動作をつねに動き揺らいでいる不安なものの一つの象徴とみていた。だからモティーヴと私の間合いが私の詩を決定づけた。しかし間合いをとるために私はいつもおどおどしており、不惑どころではない。
 八坂書房主八坂安守氏、三信装幀社丹野重幸氏には格別の御配慮をいただいた。それから私の小舎の建っている三宅島美茂井部落の人たちからも。
(「あとがき」より)

 

目次

・孤島記

・脈絡のない三章

  • 脈絡のない三章
  • 雪の二章
  • 月明による三章
  • 打擲による三章
  • 容器 その他
  • 帰郷
  • 迷蝶 その他
  • 猫 その他

・蝕の日

  • 蝕の日
  • 屍衣
  • 首の唄
  • 犬について
  • 馬匹
  • 棒好
  • 好日
  • 茶など
  • 月明 伊豆月ヶ瀬にて
  • 球について

・いけにえ

  • GOLGOTHA
  • いけにえ

あとがき

 

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