1960年3月、書肆ユリイカから刊行された滝口雅子(1918~2002)の第2詩集。第1回室生犀星詩人賞受賞。著者は朝鮮・京城生まれ、刊行時の職業は国会図書館司書。
一九五五年五月に「蒼い馬」を出してから五年たった。そのあとがきで私は、水のなかから出ていくだろうと書いて、出版記念会ではそのことがさかなにされた。その時味わつたひそかな後悔を今も忘れない。自分で自分を規定するのは、自分の手足を不自由にすることを悟つた。水の中から出ようとして、水からは出たけれど、大そう乾いた冷酷なもののなかに、のめりこんでいつたようだ。(一匹の馬)は、ただ岸に上つたにすぎなかったようだ。その源流をたどると「政治」の非情な顔がある。自分を自分らしさから遠ざけるものがそこにある。詩にはとりわけ怠惰な月日であつた。けれど怠惰ななかから生れた幾つかの詩をここに集めてみて、生活を政治的なものに近付けていた混乱の数年を、私はいま後悔していない。
女は子供を生み育てることで完成すると思うが、私はこの本を出すことで自分の永遠の未完を証明する。 この詩集の題名になつた詩「鋼鉄の足」については、足を奪つたものへの憎しみが主にならず、喪失のかなしみが色濃いのは不本意だけれど、一つには世代的なものが原因するだろう。(「あとがき」より)
目次
Ⅰ
- 射程
- 鋼鉄の足
- 冷えている胸
- 戦うアルジエリア
- 現代の洞窟
- 屠殺場で
- 試みと誤りと
- 自己喪失者
- 文明
- 智慧
- 歴史
- おかしな話
- 食事
- 夜と風と
Ⅱ
- 少女の死
- かなしみよ こんにちわ
- 男について
- 男S
- 革命とは
- すこやかな現実
- 水平線
- 若もの
- 港の対話――逃亡春
- 小さなこと
- 街の石だたみ
- 小鳥
- 言葉
- 母について
- ジョキジョキ切る(童話)
あとがき
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